一章 新たなる希望

第十話

「それで昨日はどうしたんですか?」


 一夜明けた食卓で昨日の疑問をぶつけてみる。


「あぁ、昨日屋根の修理をしたわけさ。それも母屋と本堂の両方とも、何度も材木を抱えて階段を上り下りそれが予想以上にきつかったってわけ」


 まさかのまさかだった。そうではないと思いたかったのだけれど現実はそんなに甘くないようだ。


「お、お疲れ様です……」


 とは言っても普段から運動していればもう少し動けるようになるのではないだろうか。と思うけれどきっとそれは言わない方がいいことだろう。

 元々の元凶は私にあるのだから。


「あ、そんなことよりも気を付けた方がいいぞ」


 神主は急に真剣な顔になり私にそう告げる。


「何に気を付けるんですか?」


「最近な、この神社の周辺で変なやつを見かけるんだ。だから十分に注意してくれ」


「は、はぁ、気を付けます」


 しかしいつどこでもそういう人はいるものだな。

 それにしても神社周辺を変な目的でうろうろ徘徊しているというのは罰当たりもいいところである。気を付けろとたった今言われたのに自分から動くということはできない。でも、どうにかしてお灸を据えたいものだ。


 それにしても、なんで神社周辺なのだろうか。言っちゃ悪いけれど駅とか人が多いほうが活動しやすいのではないだろうか、そういう人達は。

 ともあれそんなことを考えていても何も始まらない。


「それよりも昨日はすいませんでした」


「気にしなくていいよ。それにあの人自ら出てこられたらね」


 かなわないよ、と苦笑いをこぼした。


 ***

 

 そうしていつものように参道を掃除していた時だった。


「花撫、すぐそこで人が襲われたのじゃ」


 こちらもいつものように背後に音もなく、しかも風を起こして登場するのだった。


「あぁぁ、せっかく集めたのに―――は?」


 今、とんでもないことが聞こえた気がする。


「す、すまんのじゃ。ってそうではなくの、本当に目と鼻の先じゃ。住宅地で人が切り付けられたのじゃ」


 切り付けられた? まさか最近徘徊しているという変質者だろうか。

 それにしても住宅地でとは随分と大着なことをするものである。それに目と鼻の先とは言ってもここからは10分程度はある。


 だとしてもこんな昼間から穏やかではない。


「死人はでたんですか?」


「でておらんのじゃが、少しまずい事態になっておるのじゃ」


 まず死人が出ていないというので一安心だ。

 でも一体まずい事態とは何なのだ。不安をかきたてる要素しかない。


「それで、まずい事態って?」


「うむ、切り付けられたと言ったじゃろ。被害者によると切り付けられたのは刀のような物だったそうじゃ」


 刀のような物……それを振り回しているというなら確かにまずい事態だけれども話を聞く限りそういうわけでもなさそうだ。しかし犯人はまだ捕まってない状況なのだろう。まぁ、そんなにすぐに捕まるはずもないがそこは警察に任せておけばどうにかなるのではないだろうか。

 なんせこの時代に刀を所有しているというのは限られたごく少数であるということ。ならば捕まるのも時間の問題ではないだろうか。


「違うのじゃ、問題なのはそこではない。被害者の記憶を覗いたのじゃが確かに刀で切り付けられておった。しかし警察はその犯人を捕まえられないのじゃ」


「どういうことですか?」


 なんで切られたことが分かっていて捕まえられないのだろう。だって何で切られたのかとか被害者の証言とかがわかれば……。


「犯人は人間ではないのじゃ」


 そこに追い打ちをかけるように衝撃の事実が突き付けられた。


「……は?」

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