第九話

 春とは言えどまだまだ日は短い。

 少し肌寒い風が吹き抜ける。


「……夕飯作らないと」


 それに今日のこともしっかり謝らないといけない。

 仕事をサボった挙句こんな時間まで帰って来なかったのだからきっと怒っているよね。

 

 恐る恐る玄関まで向かう、こういう時に裏口があったらなと心底思うのだ。


「あの、今日はすいませんでした」


 神主は思った通り玄関の前に仁王立ちをしていた。

 いつものように長い説教があると思ったのだけれど……。


「あぁ、問題ないよ。花撫の代わりに女神様の従者さんがやってくれたし、ご飯も作っていってくれたし……とりあえず今日はもう寝るよ」


 なぜだろう、物凄く元気がない。それにいつもアマテラスのことを女神様なんて呼ばない、何やら相当疲れているようだ。


「あ、あとお帰り」


 神主は振り向きざまに笑顔でそう言った。

 その笑顔がすごく不気味である。


「た、ただいまです……」


 なにかの依頼でもきたのだろうか。そういうのは普段私がやっているから、迷惑をかけてしまったのかもしれない。

 というかここでずっと私が帰って来るのを待っていたのだろうか、そんなことを考えながら靴を脱ぐ。


「あ、あの……」


 しかし、声をかけたときには神主はとっくに自分の部屋へと消えてしまっていた。


「花撫様。今日のご報告を致します」


 やはり今日は背後からよく話しかけられる。

 振り返ると腰まである長い黒髪を後ろで束ねた碧眼のメイドが立っていた。


「お、お願いします」


 彼女がアマテラスの従者でかなり謎が多い女性、菊である。

 というかなぜこんなにもメイド服が似合っているのだろう。

 何の違和感もなくピッタリとはまっている。最近まで彼女は和服だったと思うのだけど……イメチェンだろうか。


 わけがわからず心の中で首をかしげる。


「あぁ、これはアマテラス様が最近アニメにハマった影響です」


「……菊さんも考えていることが読めるんですか?」


「いえ、あそこまでまじまじと見つめられていますといやでも……」


 どうやら思っていたよりも長い時間眺めてしまっていたようだ。

 というかアマテラスでもアニメを観るんですね……。


「それで、報告をしますと屋根に破損箇所がいくつかあったので神主様にもご協力いただき修繕しておきました。それとカレーを作っておきましたのでよろしければお食べください、その他に目立ったことはありませんでした」


 本当になんでも出来る、だからこそアマテラスの従者がつとまるのだろうけれど。


「ありがとうございます、助かりました」


「いえ、これが仕事ですので。それと花撫様、差し出がましいのですがこれからも主様をよろしくお願い致します。花撫様にお会いになってから毎日をとても楽しそうに過ごしておりますので」


 本当に主人思いの優しい従者である、アマテラスをこんなにいい従者を持っているなんて羨ましい限りである。


「私はいつまでも一緒にいるつもりですよ」


 私が《ここ》にいる限りは……。


「感謝申し上げます。では失礼致します」


 そうして瞬間移動を使って帰っていった。本当に何でもできるんだよなぁ。


 あれ? 結局神主はなんであんなに疲れていたんだろう。すっかり聞き忘れていた。それに菊さんは何も無かったって言っていたし、明日本人に聞けばいいのだろうか。

 流石に屋根数ヶ所の修理で疲れるわけない……と思うのだけれど。


「でもとりあえず今はカレーを食べよう!」


 まさか思っていたそばから菊さんの料理が食べられるというのは本当についている。本当に冗談抜きで絶品なのだ、普通にお店で出せるくらいというか下手するとお店で出るものよりもおいしい。


 なんだかんだあった一日だけど終わり良ければ総て良し。


 うん、そうだよね。

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