第八話

「こ、こんなに材料がそろっている……」


 前に来た時はすっからかんだった冷蔵庫にはあふれんばかりの食材が詰まっている。一体何があったのだろう、鈴蘭は自分から進んで買い物に行かない。あるものでどうにかしるしないならないままという生活スタイルだったはずだ。


「この前来た時は買い出し前じゃったらしいからの」


 鈴蘭が買い出しをしている状況がいまいち想像できないのはこの際おいておくことにする。

 しかし見たことのないような材料もある。

 少し実験も兼ねて試作するのもいいかもしれない。


「あの、サンドイッチを作ったら食べてもらえますか? どんなものなのかっていう試食みたいな感じですけど……」


「もちろん食べさせてもらうのじゃ。お主の料理は菊に負けないくらい美味しいからの、たとえ試食でもなんでも食べるぞ」


「流石に菊さんに負けないっていうのは買い被り過ぎだと思いますよ」


 料理も掃除も洗濯も超一流、何をやらせても玄人くろうとレベルという従者の鏡のような人。

 それが女神様の従者、菊さんだ。


「ふふ、照れているのかの。可愛いの、これは鈴蘭すずらんがああなるのも分からんでもない」


「女神様までああならないでくださいよ」


 女神様までああなってはいよいよ収集がつかなくなる。


 10分程でサンドイッチとスープ作り終えた。きっと材料が良かったのだろう、とてもいい出来上がりとなった。

 というか過去一番のできかもしれない。


「うむ、やっぱり美味しいのじゃ」


 と、女神様の太鼓判を頂いたサンドイッチを冷蔵庫にしまい鈴蘭に食べるように促しておく、そこはかとなく屋敷を掃除をしたのちに女神様の瞬間移動によって再び神社へと帰ってきたのが夕暮れ、すっかり日は傾きというか今にも沈みそうな頃であった。


「その後ろの光輪、なんか暗くなってきてません?」


「ん、そうじゃな。そろそろ日も沈むからの。言わんかったかの、妾の力は太陽によって変わるのじゃ」


 初耳である。ということは夜は弱体化するということだろうか。


「そういうことじゃ」


 なんだかんだ言っても女神様でも弱点はあるということだ。


「……というか結局、私は何をしにあそこに行ったんですか?」


 鈴蘭の膝枕をして、家事をこなしてきたという記憶しかない。


「ふむ、あれは警告じゃな。あんな地球外もいいところなものが出てきたから今後気おつけてくれ、ということじゃろ」


 確かに持ち主から何らかの形で接触があるかもしれない。

 だだ純粋に忠告だけならばよかったのだけれど、きっと別の目的があってさらにはそっちのほうが主な目的ではないだろうかと思う。


 だって接触があるとすれば私ではなくあの球体を持っている鈴蘭自身にコンタクトがあるだけで知りもしない私達には影響はないはずなのだから……。

 あれ? そうすると私はとんでもないことに巻き込まれたのではないだろうか。


「……まぁ、それだけお主に会いたかったのじゃろうな。こうでもしないとお主はあの竹林に足を運ばんじゃろ」


「そんなことは……あるかもしれませんけど」


 とても嫌な予感がする。

 本当に何もないといいにだけれど……。

 そもそもそんなに会いたいのなら鈴蘭から会いに来ればいいのに。いやでも今回のような厄介ごとは流石に勘弁して欲しいけれど。


「ふむ? 向こうから会いに来るのは別に構わないのか?」


「特に、これと言って問題も無いですから……まぁ、流石に抱きついてくるのとかは止めて欲しいというか抱きついてきたら躊躇ちゅうちょなく警察に引き渡しますけど」


 そこら辺は鈴蘭に常識があることを願う事にする。


「ならばあやつにそう伝えておくのじゃ、しかし変じゃな。鈴蘭はこの神社に行くことは出来ない、みたいなことを言っていた気がしたのだが……お主が来るなと言ったのではないのか?」


「いいえ、そんなことは」


 私はそんなことは言っていない、別に特段断る理由もないのだから。

 というか確かに今思えば不自然でしかない。私が行くたびにあんなにもべったりしてくるにも関わらず彼女と出会ってから彼女がこの神社に訪れたことが一度もないというのは。


「まぁ、それはまた今度聞いてみるのじゃ。それよりも、わらわのことも名前で呼んでほしいのじゃ」


「唐突ですね。どうしてまたこのタイミングで?」


 今までそんなことを言われたことはなかった。


「わ、妾以外にも女神はおるのじゃ。それに妾はお主に名前で呼ばれたいのじゃ」


 珍しいことがあるものだ。女神様が私にお願いらしい頼みをするのは初めてではないだろうか。というか神様が一般人に願うというのは大丈夫なのだろうか。


「……分かりました。けれど1つ、条件があります。代わりと言っては何ですが私のこともお主ではなく花撫と呼んでください」


「うむ。分かったのじゃ、花撫」


 そうしてとても嬉しそうに微笑むのだ。


「あっ、そうじゃ。妾も様はいらんからの。むしろ鈴蘭のようにアマちゃんでも構わん」


「いえ、流石にそれは厳しいです。私はアマテラスと呼ばしてもらいますね」


 やはり神様に対して様をつけないというのは気が引けるが本人の頼みなのだし、何より彼女が頑固なのはよくわかっている。

 一度決めたらことを成し遂げるまで決して諦めない。


「うむ、とりあえず今日はこれで帰ることにするのじゃ。それとちかじか宴会を開くつもりじゃ、それとなく準備をしといての」


 そう言って最後まで満面の笑みで帰っていった。


「というか宴会ってどういうこと……」

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