第七話

「本題に戻ろう……これを見てくれ」


 なんの脈絡もなく鈴蘭が何かをふところから取り出す。

 机の上に置かれたそれは手のひらより一回りほど大きなサイズの綺麗な球体で向こう側までしっかりくっきり見えるほどに澄み渡っていた。

よく見る占いで使う水晶と同じか少し大きいくらいだろうか。


占い師なんかはあのような水晶はどのようにして入手しているのだろう。


 ともあれキラキラと光を反射するその姿はなんとも神秘的なものだった。


「……それくらい単純だったら良かったんだけどそうはいかないんだよね。これ水晶でもないしガラスでもないし勿論ダイヤモンドでもない」


「それじゃ一体なんなの?」


 こんなに大きくなおかつここまで透明な球体は水晶以外で見た事がない。


「それが分からない。こんなに綺麗な球体でありながら硬度はダイヤの何倍もある。少なくとも今の技術では精製不可能さ、というかこんな硬度なものそもそも加工ができない」


 これがダイヤモンドの何倍もの硬度を持っているというのは正直信じられない。

 試しにデコピンで弾いてみる。


「か、硬い……」


 驚くほど硬いというか痛い。爪が割れるかと思った。

それなのに球体には傷一つついていない。


「なのにこんなに軽い」


 ひょいっと手渡される。


「えっ、軽い……」


 それこそ羽のようにというのは言い過ぎかもしれなけれど、さっきの硬さからは想像もできない軽さである。

この世の物質は大抵硬度が上がれば比例して質量も大きくなる、と聞いたことがあるのだが。


「……ちなみになんでダイヤより何倍も硬いって分かったの?」


「ダイヤをぶつけて砕けたのがダイヤだったってだけさ」


 首を傾けて、不思議そうな顔をした後にとんでもない発言がとび出てきた。

 ダイヤをぶつけた?


「……なんでそんな顔してるんだ」


「いやいや、ダイヤだよ。1カラットで何億もする」


 金持ちがこぞって欲しがる宝石の中の宝石、それがダイヤモンドのはずなんだけど。そんな簡単にぶつけて砕いているとは驚き以外の何物でもない。


「あんなのただの炭素の集合体なんだけど、それに構造を変えれば鉛筆だって髪の毛だってダイヤになるんだぞ」


 そう言えばこの仙人、物体の構造をいじれる固有能力を持っていた。

きっと価値観の違いはそこから来るのだろう。


簡単に作れるものにそれほどの価値もないということなのだろう。


「でも、これは構造が分からないんだ。そうまさしく未知、なんだよ」


「つまりこの星のものでは無いということかの?」


「おそらく、というかそれ以外考えられない。というかそもそもこんな原子が地球には存在しないんだと思う。見たことすらないんだ」


 なんだかもの凄いスケールの話になっている。


加工された球は少なくとも地球では加工できない代物。それも地球には存在しない原子で構成されている。

要約するとそれってつまり宇宙人がいる、ということ?


「まぁ、そう考えるのが妥当。いや、あるいは……もう少し調べるかな」


 今までのやり取りが嘘のようによいしょ、と起き上がり客間を出ていった。


「ああなったら帰ってこないの。あやつは昔はああだったのじゃ、むしろあれが普通じゃったのに……」


 そうして何か言いたげに私のことを見るのだ。

だから私は何も悪くないでしょ。


「……帰ります?」


 本当に私が何をしたのだろう。

これといって何かをした訳でもない……はずなのに何故か私のせいみたいになっている。


「うむ、その前にご飯を作って欲しいのじゃ」


 ……この状況でも何かを食べようというのだろうか。なんというか、その、ある意味感心である。


「ち、違うのじゃ、鈴蘭のじゃ」


「……あぁ、そういう。別に構いませんよ、少し待っててください」


「むっ、なんじゃその間は」


「なんでもないですよ」


 さて、それほど重くなくなおかつ食べやすいもので作るのに時間がかからない。


そうなるとやはりサンドイッチが妥当だろう。


「鈴蘭も喜ぶのじゃ、あやつの大好物じゃからの」


 嬉々としてそういう女神様の方が喜んでいるように見えた。本当に鈴蘭のことを大切に考えているようだ。


「ふふ、そうなんですね」


 そんな女神様を見ているとこっちまで楽しくなってくる。


 そんな中残る問題といえばこの家にパン及び食材があるのか、ということだ。

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