第六話

「なんか最近おかしいとは思わないか?」


 真剣な顔持ちで鈴蘭は私達に問いかける。


「……おかしい、ですか?」


「うん。最近、妙にやかましいんだよ。何かが起こるような気がするんだけど、そこのところどうなの?」


 鈴蘭は女神様に向けて問いかける。というのも女神様が所有する道具の中に物事の良し悪しを図るのもがあるというのだ。

 水晶玉のような形をしているらしい。


「……良くない気は感じる。じゃが、それだけじゃ。その他には何も分からんのじゃ、起こってみないと何とも言えん」


 そもそも何がやかましいのか、良くない気というのは何なのかというところからよく分からない。

 なんとなく嫌な予感がするとか、そんな感じなのだろうか。


 真実は神のみぞ知る、とはよく聞くが最高神である女神様でも分からないことはあるらしい。


「……例えばじゃ、焦点を1人の人間に当てはめるとしよう。そやつが生涯選択する選択肢というのは無数に、それこそ無限のように存在するのじゃ、選択しなかった選択、選択しなかった先にある選択、そして選択した先にある選択。それを地球全体、全ての事象の想定と演算となると比喩抜きで骨が折れる、やったことはないのじゃがそんなのわざわざ考えるまでもなかろう。我らは有能ではあっても万能では無いのじゃ」


「そういうものですか……」


「まぁ、だからこそ人間は万能を求めるんだよな。自分が万能じゃないから万能なものが存在すると思っていたい。そうすれば万能じゃないからって言い訳ができるからな。結局人間の自己満足、叶うはずもない幻想で想像で妄想でしかない」


 存在するはずもない万能を想定して自分の非を回避しようとする人間の醜さの産物。それでもやはりそれがあるからこその人間なのかもしれない。欠点がない人間など存在しないのだから。

 逆にそういったはっきりとした逃げ道が無ければきっと人間というものは簡単に壊れてしてしまうのだろう。


「……だけどさ、いいこと言ってるのかもしれないけど全然様になってないですよ」


「アマちゃん、本当に花撫が冷たいよぉ」


 目をうるうると潤しながら鈴蘭は助けを求めるように女神様の方を見つめる。


「じゃったら、膝枕を止めたらどうじゃ……」


 もう天罰のひとつでも落としても誰も攻めないと思う。


 それに女神様が東北の方で素潜りをしているような呼び方になっている。

 本当に恐れを知らないというか無駄に肝の据わった仙人様である。まぁ、でもそれもそのはずで驚くことに彼女、既におよそ1200歳だという。


 平安時代から現代まで生きているというのだ。超長寿、というか不老不死なのだ。聞く話によると仙人になれるとその特典みたいな感じで不老不死になれる、というか強制的にそうなってしまう。


 ということを鈴蘭から聞いたことがある。そもそも何が仙人の定義なのかとか、本当に不老不死なのかどうかは謎であるけど。

 でも確かにそれだけ生きていればいやでも親しくなるのかもしれない。

 彼女達を見ていると本当に友達のように見えることが多々ある。


 それにしても本格的に私がここに呼ばれた理由が分からなくなってきた。

 世間話ならばここの2人でしていればいいのではないだろうか。私が出る幕はないはず。


 そもそも内容が理解できていないのだから、出るに出れないのが今の状況である。

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