第四話

 そうしている間にも鈴蘭は私の匂いを嗅いでいる。


「すぅ……はぁ……」


 と何度も呼吸している。


 もう早く警察に引き渡してよ。誰でもいいからさ。


「いやなに、最近花撫成分が足りなくて、何をするにもやる気が起きなくてね。それに何より花撫の巫女装束が見たかったのさ、流石は巫女。うふふ、眼福眼福役得役得」


 もう本当に誰かどうにかして。どうして世の中こんなにもどうしようも無いことで溢れているのだろうか。

 というか眼福とか言いながらすりすり頬を擦っているのはかなりの矛盾だ。見てないじゃん。


「あなたって本当に仙人なの?」


 本当に本気で疑いたくなるレベルである。

 正直私自身これを仙人様だとはどうしても思いたくない。仙人様と言えばもっとこう高貴なイメージがあった。


 というのも今となっては過去の話だけれどもそれでもあの出会った時の鈴蘭はどこに行ってしまったのだろう……もうため息しか出てこない。


「失礼な、私は十分高貴だろ」


「鏡を見ても同じことが言えるんですか?」


 十中八九今のこの姿を見て彼女のことを仙人だと思う人はいないだろう。


「無論、私はいつでも仙人のかがみのようであると断言出来る」


「なんでうまい事言った、って顔してるんですか……」


 もはや皮肉すら通じないという、なんともポジティブな思考である。こんなのが仙人など知っていても知りたくもない事実だ。

 更にそれだけでは無いのだ。

 よもやこれが日本で五本の指に入る仙人と言うのだからいよいよ世も末である。

 絶対何かの間違いだと思う、お願いだから間違いであって欲しい。


「何度も言うが、お主と会うまではまともだったのじゃぞ。どうしてこうなったのか妾が聞きたいのじゃ」


 ……なんで私が悪いと言われなければいけないのだろうか。これといって何をしたわけでもないのに。

 というか何もしてないのに。

 やはり世の中はとてつもなく理不尽だ。


「というか、そろそろ離れてくださいよ」


「う〜ん、もう少し……」


 口で言っても聞かないので、無理やり引き剥がす。なんとも残念そうな顔をするのだけれど、普通ならこんなことはありえないので無視しておく。

 というかそもそも私は客人じゃないのだろうか?

 一体全体何がどういうことなのだろうか。

 

 この人達、1名は人ではないが……いや、そもそも普通の人間が私以外この場にいないのだろうか。


 あれ? 私は普通の人間だよね?


「まぁ、用件は別にある。立ち話もなんだ。中に入ってくれ」


 そしていつも思うのだけれど、このスイッチの切り替えは一体どこにあるのだろう。できることならいつもこの状態でいて欲しいのだけれど……。

 とにもかくにも客間まで案内される。


 というか用件が別になかったら間違いなく速攻で帰らせてもらうところです。


「はぁ……なんでこうなったんじゃ」


 女神様は盛大にため息をこぼすのだった。

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