第23話 軍訓練開始!
「はぁ〜疲れた……」
入隊式の後は一日施設の案内や明日から始まる講義や訓練の説明の時間となった。
先程ライトと夕食を終え、漸く割り当てられた軍の寮……所謂寄宿舎の自室に戻った。外はもうすっかり暗い。
流石国軍の寮というべきか、かなりの大きさを誇るこの寮は三つの建物に分かれている。簡単に言うと大隊、中隊、小隊の寮に分かれており、上階に上がるにつれ役職持ちや実力者の部屋になっていく。
本日の入隊者達は当然ながら小隊の一階の部屋が割り当てられるがレイアにしてみれば思ったより立派で驚いた。
部屋自体はベットと勉強机しかなく狭く感じるかもしれないが、何よりも驚いたのはトイレと簡易的なシャワー室……ユニットバスがついていることだ。
それぞれの自室についていることに驚くと同時に酷く安心した。女である事を隠さなければならない以上、心配していたのだ。一応軍に入る前に事前調査をしていたのでシャワーがそれぞれの部屋にある事は知っていたが、ユニットバスまであることに驚いた。
一応、大浴場もあるので大抵は疲れをとるためにそちらを利用するらしいが、レイアが大浴場に行くことはおそらく永遠にないだろう。
わざわざ個室にシャワーが完備されているのは、訓練で酷く汗をかいた後、いつ何時でも直ぐに清潔な身嗜みを整えることができるようにする為だと聞いた。
本当に小さなユニットバスとはいえ、湯船につく事を諦めていたレイアにとっては僥倖だ。
……実を言うと、余りに宿舎がボロボロになったため、数年前にそれぞれの寮を改築し、綺麗で立派な寮に生まれ変わったのだが、当然そんな事をレイアが知る筈はない。
レイアは早速水を湯船にためると、鞄からある物を取り出した。
それは硝子で出来た手の平に乗るほど小さなサイズのポットの様な形をしたものであった。実はこれはレイアが作った魔法道具だ。軍に入隊する二ヶ月前には殆どの魔法を取得する事に成功したレイアは急いで魔法道具の製作に取り掛かった。
シエール家でへクセさんに時々協力してもらい、何とか一週間前というギリギリの時期に完成した代物である。
中に何も入ってないように見えるこのポットだが、実は海へと通じる魔法をかけた次元魔石を硝子の内側に埋め込んであるのである。そして魔力を込めながらポットを傾けると、中から海水が出てくるという仕掛けになっている。
そう、レイアがわざわざお湯ではなく水を貯めたのはこのポットを使い、ある程度水と海水を混ぜることで塩分は薄い擬似的な海水に足を浸すためだ。
海から最も離れた寮で生活する為に作った渾身の魔法道具である。これはこれから軍で生活していくレイアにとっては命綱の様なものである。
念のため同じ効果を発揮する魔法石だけは予備も幾つか持ってきている。何しろ何年持つかまではわからない代物なのだ。
だが、この魔法道具のお陰で、レイアは海まて行かずとも足を海水に浸すことが出来る。しかし、この魔法道具を持ってしてもレイアが全く海に行かずにこの軍にいられるのは持って五年と言える。キュステさんの家にいる間は二、三ヶ月に一度は夜の海でこっそり人魚に戻っていた。海水に浸すだけではやはり限界があるからだ。これからはこのユニットバスで最新の注意を払って人魚の姿に戻らなければいけない時間がくる。一度人魚の姿に戻ればどんなに短くとも三分は元に戻れない。これも本来なら五分のところを訓練を積んで短くしたのだが、やはり三分が限界であった。安心出来るようなら十分は本来の姿に戻るべきなのだが……そのあたりは様子を見ながら決めていくしかないだろう。とりあえず、暫くは毎日海水に足を浸すことで耐えていくことにする。海から最も離れたこの場所では、そうやって誤魔化していくしか、レイアに残された方法はないのだ。
足を海水に浸しながら、レイアは今日の午後の施設案内や講義の説明の時間を思い返す。
(今からアレじゃ、先が思いやられるな……)
レイアはゲッソリとした顔で深い溜息をつく。案内や説明の間中、レイアをジロジロとみる不快な視線は途切れることがなく、案内の間など何度もセクハラ紛いなことをされそうになったのだ。ライトがフォローをしてくれる中でレイア自身も触ってこようとする手を払ったりつねったり余りにしつこいようだと思いっきり足を踏んづけてやったが、今からアレでは……本当にどうしようもない。
そのせいでただの説明会ともいえる初日にこんなに疲れてしまうハメになったのである。
(ライトには本当に感謝してもしたりないな……思い切り巻き込んじゃってるし本当に申し訳ない)
ライトとしてはカリーナからレイアを守る使命を与えられているので当たり前の事なのだが、もちろんその事をレイアは知る由もないのであった。
(とりあえず、あの馬鹿な奴らには明日の訓練で目に物見せてやる……)
シャワーを浴びながらそう考え、レイアは明日の為に早めに就寝した。
ちなみに戸締りはしっかりとし、もしもの時のために長剣を抱きしめながら就寝するレイアであった。
翌る日の訓練場……
「じゃあ、今日は手始めにお前らの能力をある程度確認する為、まず十人ずつの五グループに分かれて、体術、剣術、二分野においてそれぞれ総当たり戦を行ってもらう。殺しさえ無けりゃ言ってしまえば何でもありだ。あと魔法も使って良しとする。対戦結果はこの先の訓練での能力の基準にも響くから手抜きなんてものはしないように。審判は私を含めた五人の教官で行い、勝敗が決したと思ったら試合をとめる。ではまず最初の三組、前へ」
基本的に一組みに対し、一教官がつき、二人は全体の様子をみる形をとるようだ。
そしてこれは、まさにレイアとしては千載一遇のチャンスである。ここで良い結果を残せば後後の昇進に響く上に、馬鹿な男どもの認識を改める又と無い機会なのだ。
レイアは所属してるグループの四組目、既にやる気は充分である。
その様子を別のグループに別れたライトが呆れたようにみていた。そして同グループのレイアを見ながらニヤニヤしている男どもをみて、ご愁傷様と小さく呟いていたが、残念ながらそれを聞き取れた者はいなかった。
そして四順目が始まる二十分後に訓練場に不運にも初っ端にレイアの相手となった男の絶叫が響き渡るのであった……。
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