第21話 屋外訓練場にて
屋外訓練場という名の広大な面積を誇る広場のような場所に、続々と同じ年頃の男子が集まっていた。と言っても入学するのは毎年四十人いるかいないかという事なので殆どは既に軍に在籍している先輩達だ。彼らは今期入学生の後方へと隊列を組んでいた。
流石軍学校というべきか、彼らの動きはきびきびとしていて今期の入学生とは既に纏う空気からして違っていた。
レイアは既に今期入学生達の列の端に立ち、その様子を関心した様に見ていた。もちろん隣にはライトがいる。というか、何故かライトはレイアに端に立つように言ってきて、その隣をキープしていた。
「……何でライトに場所を指示されなきゃならないんだ。別に場所決まってないだろ。端だと前の反対側の方にいる上官が見えない」
不満そうに文句を言うレイアをライトは呆れた様に見遣る。
「……お前、本当に自覚しろよ……。こんだけ見られてんのに……」
「はぁ?」
ライトは溜息をつく。レイアは不思議そうにライトを見ていたが、上官が集まり出したのに気を取られ、さっさと前方に視線を移した。
ーライト視点ー
(レイは気づいてねーみたいだけど、予想通り注目されまくってんな……)
レイが訓練場に入った瞬間思い切りざわついたし、空気も変わった。今でも殆どの奴がジロジロとこっちをみてる。その視線の集まり具合にこれはヤバイと、ライトはレイを端に立たせ、隣に立つのが自分だけで済むようにしたのである。
ライトは隣のレイを見遣る。
レイは美人だ。男に使う様な言葉ではないと言われるかもしれないが、そうとしか言いようがないのだからしょうが無い。
もう随分と見慣れたはずの自分が改めて見てもそう思ってしまうのだから、注目が集まってしまうのも仕方ない。何しろ男所帯の軍団、周りはむさくるしい男ばかりだ。その中でこんな美人がいたらどうしたって目立つに決まってる。
(せめて髪が短いままだったなら……いや、顔がはっきり見える分、どちらにせよ同じか……?)
道場に通い始めた頃は短髪だったレイは髪を伸ばし続けて今では胸のあたりまで伸びている。まぁ、後ろでひとつ結び……所謂ポニーテールにしている為今は肩に届くかどうかまで括りあげられているが、その髪型のせいでどうしたって遠目では女に見えるだろう。いや、違う。遠目じゃなくても女に見える。だが本人はそれを気にしているようで、気安い仲になってからはライトがそれを指摘しようものなら思い切り殴りかかってくる。
だったら髪を短くしたらどうだと言ったら、どうやら世話になっているキュステ叔母さんに髪を伸ばすように言われたらしい。
どんな理由だ……と呆れはしたが、キュステ叔母さんの気持ちもわからない訳じゃない。
(コイツの髪、綺麗だもんな〜)
レイの金髪は陽にあたるとキラキラと輝いて、唯でさえ整った容姿を更に引き立てる。ライトも少し前までは中性的な整った顔立ちをしていると言われていたが最近は成長して、流石に遠目でも男だとわかるような身体付きになった。しかしレイの場合は筋肉がつきにくい上に、どうしたって細身だ。ライトも人の事は言えない細身な体型であるし、身長に至ってはレイより少し低いぐらいだが、(だが最近成長期が来たのかどんどん伸びているのでそのうち超える筈だ!)流石に男だとはわかる。なのに同じような体型の筈のレイは雰囲気なのか何なのか、あまりこう……そう、男臭さというものがないのだ。
だからか妙に視線を集めてしまうし、正直道場でもかなりの人数がレイに想いを寄せている奴がいた。まぁ、そいつらについてはカリーナと協力してレイに近づけされないようにしていたが、流石に軍に入隊するとそうもいかない。今まで先延ばしにしてきてはいたが、いい加減に本人に自覚させなければいけないだろう。というか自覚してもらわないと困る。既にこんなに視線を集めているのだ。いくら寮は鍵付の一人部屋であると言っても襲われるのは時間の問題だ。
気にしてるレイの機嫌を損ねたくはないが、この状況では言わない方が問題だしカリーナにも頼まれているのだ。寧ろレイの為に注意してやるべきだとライトは腹を括った。
ーレイア視点ー
「……レイ……」
「ん?どうした?」
式典がもうすぐ始まろうとしている中、隣に座るライトが妙に重々しく口を開いた。
「その、な……あまり俺も言いたくはないが、お前の為だ。本当に気をつけてくれ!頼む!」
「は、はぁ?」
何の事かわからず、レイアは困惑するが、ライトはあまりに必死だ。一体急にどうしたと言うのだ。
「気づけよ、さっきから周りの奴らだけじゃない……かなりの人数の男から見られてる。お前は言ったら怒るけど、どうしたって中性的な顔立ちのレイはむさ苦しい軍隊の中じゃ視線を集める。僕はちゃんとお前が男だってわかってるし、腕っ節の強さや馬鹿みたいに高い魔法技術の事も認めてるけど、その外見だとレイを変な意味で狙う奴らは大勢出てくるんだ。だから気をつけてくれ!」
「なっ!ハァ!?」
余りの言われ用に咄嗟に言い返そうとしたが、ライトの必死な表情から自分を心配して言ってるのだと言うことが解り、何も言えなくなる。まさかと思い、さり気なく周りに視線を向けると思いっきり顔をそらす奴らが……かなりの人数、いた。なんてことだ……。確かに訓練場に入ってから妙に視線を集めているような気はしたが、今の人数は洒落にならないだろ……。
「何でだ……? 中世的な顔立ちの奴なら他にも沢山いるだろ……? ライトだってそうじゃないか……半分はライトを見てたんじゃないか?」
「……認めたくない気持ちはわかる。わかるが、現実を見てくれ……。こう言っちゃなんだけど、なんかレイは清廉としてるっていうか、男臭さがあまりないんだよ……やめろ睨むな!俺だって言いたかないけど、これからこの男所帯で生活するんだ!自覚してもらわなきゃ困る!」
現実逃避気味に問いかけた内容への答えがあまりに気に入らなくて途中で睨むが理不尽だと言い返された。
ても、確かにこの会話の最中でさえ何人もの男がちらちらとこちらに視線を向けていた。認めたくはないが、ライトが言ってることは間違いではないのかもしれない。
まぁ、実際女なんだから男臭さがないのは仕方ないとはいえ、制服に肩パットを入れたりと少々手を加えて女には見えないように努力はした筈なのに……。やはり、筋肉がつきにくいのが敗因なのか……?
女だとはバレるつもりはないけど、これは最初から面倒な事になりそうだ。
周りから向けられる視線にげっそりとしながらレイアは溜息をつきつつ、忠告してくれたライトに感謝を述べる。
ライトは余程心配してくれていたのだろう。ホッとしたような表情をしたが、未だに集まる視線にすぐ様切り替えて俺も出来る限り協力はするけど、気をつけろとまた注意してきた。どうしたものかとレイアはしばし考え、一先ずの結論を出す。
(こればかりは講義の中で実力を示して馬鹿な男共の認識を改めさせるしか無さそうだな……)
そろそろ式が始まるのだろう、簡素な高台に登壇する幹部の男に目を向けながらレイアはそんな物騒な事を考えていた。
元々少々サバサバした所がある性格ではあったレイアだが、この半年で彼女は更にそれを助長させるかのように男らしさにも磨きをかけてしまっていたのだった。
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