過去


前回、ヨーロッパでの異変がシベリアへと影響を及ぼしていることがわかり、その中でも結界にヒビがはいったこと その前からアルファ、ベータがヨーロッパに現れていたことなど数々の異変が起こり始めていた。

そして、学園長からアルファとベータについて語られることとなった。


「あれは15年前のことです。まだ多くの国がディザードからの侵攻を抑え込むことが出来ていた頃の話になります。その当時、日本やアメリカ、中国、イギリスなどの主要な先進国が中心となってディザードの討伐や生態系の調査のために研究及び兵器開発分野で協力していました。」


「はい、私の父親もその研究者の1人です。確か

その兵器研究と開発によって魔法銃と魔法装備が作られたと聞いています。」


「はい、その通りです。その兵器の開発により、壊滅的打撃を受けていたアメリカや中国などの核保有国は領土の奪還が容易になりディザードとの共存地帯が作れると思われていました。ですが、現実はそこまで甘くはありません。アメリカ陸軍、海軍、空軍合わせて数十万という大部隊がアメリカの西海岸を一時的ではありますが、制圧したそうです。」


「どこからそんな兵力を? アメリカ本土はディザードに占拠されていたはずなのに…」


「それは多分、ハワイやグアム、日韓の駐在米軍でしょうね。まだその当時は韓国には約60~70万ほどの兵力が在駐していたはずですから。」


「なるほど そんなにも駐在していた理由は北朝鮮の崩壊ですね。」

2130年頃、北朝鮮には未だディザードが現れていなかった。しかし、夏を過ぎた頃に突如、地面から大量のディザードが現れ、北朝鮮軍との大規模な戦闘状態になったものの、あっという間に壊滅してしまい、中国軍が戦闘に介入

その介入により、戦火が広がってしまい、韓国にもディザードが侵入してくるようになってしまったのである。


「話を戻しますがそれからアメリカ陸軍は旧研究施設で強力な兵器の開発を進めるため、研究を始めたのです。その研究は男性兵士でも魔法が使えるようにするための人体実験でした。」


「えっ!?…」


「それはやってもいい事なんでしょうか?」


「えぇ、本当はやっては行けない事なのですが… その当時国防長官を務めていたロバーツ・マンティス下院議員はその件を黙認したようなのです。旧アメリカ政府にとっては重要な研究と位置づけられていたのようで徹底的に情報が隠されていたので露見したのは旧アメリカ政府が崩壊した後からでした。」


「どうしてアルファとベータの存在が明るみに出たんですか?」


「はい、旧アメリカ政府は台湾の悲劇に対応するためアルファとベータの戦闘地域に投入することを決断し、秘密裏にアメリカ海軍が運んでいた際、アレクサンドルクナに遭遇してしまったことでアメリカ海軍は壊滅 その船に運ばれていたアルファとベータが台湾に現れて大暴れした結果、アレクサンドルクナは退治出来ましたが… 大暴れしたことでたくさんの死傷者が出てしまいました。それが台湾の悲劇です。それからこの話には続きがあります。」

学園長室から出ていった潤と朱音、梓の3人は自分たちの寮に戻り、シベリアへ向かうための準備をし始める。

潤は、天照大御神様と電話しながら服を選び、かばんに詰め込んでいた。

特別編入生の回で学園を訪れていた天照大御神様は旧アメリカ大陸に用があるため、日本に帰国し、今もアメリカにいる。


「シベリアか… あそこはめちゃくちゃ寒いんだよな。」


「こっちは神の会合が長引いて2ヶ月間空気が汚いアメリカにいるんだよ。そっちの方がいいよ。」


「そんなに汚いの?」


「うん、まぁこの世界の大部分が核の汚染によって空気が汚い所の騒ぎじゃないんだけどね。」


「確かに 魔法装備を着てれば基本的に安全だし、少しだけ汚染地域が減ったって言う噂があるけどどうなの?」


「うーん、多少は減ったかもね。ただ、10年じゃそこまで減らせれないのが厄介な点だよ。」


「そうだね。魔法で除染作業してる人達は大変だろうね。」


「その話は置いといて シベリアでの異変は神の会合でもその話があがっていたんだ。もし、何が分かれば連絡するよ。」


「了解 バイバイ」

天照大御神様との通信が終了し、色々とものが詰め込めた頃、学園長室では先程の話の続きが行われていた。


「先程の話の続きになりますが、アルファとベータは台湾に現れて大暴れした頃、アメリカはこの件についてバレては困ると判断したんでしょうか。研究施設を含むその周辺の都市ごと核弾頭ミサイルを撃ち込み証拠隠滅を図ったそうです。」


「そんなことすれば… たくさんの死者が出て…」


「その爆発は原子力発電所のメルトダウンとされ、生存者はほとんどいなかったとされています。こんな非人道的行為が許されるはずもなく、旧アメリカ政府関係者及びこの件について関わっていた者を含む数百人が逮捕され、日本司法によって処罰されていきました。」


「それが真実ですか… 」


「アレクサンドルクナが現れた事がきっかけでこのような事態が起きてしまったことは誠に残念ではありますが、息子の意思は孫に受け継がれていると私は思っています。だからこそ、私は孫の潤くんにこの件を解決して欲しいのです。どのような辛い事実があったとしても…」


「それは彼を苦しめることになりますよ。それでも… あの子にこの件を任せるんですか?」


「えぇ、真実はいつも正しいとは限らないでも事実は変えられない。」


「分かりました。私達も出来るだけ協力させて頂きます。では、我々はアイランドパトロール本部に戻り本部長と協議した上で支援内容を決めたいと思います。」


「分かりました。連絡はここにお願いします。」


「はい、では失礼します。」

アイランドパトロール本部の人達が帰った後、

学園長は夏姫と話をしていた。


「この件については私はまだ納得していません。」


「はい、それは分かっています。ですが、現実問題としていつまでも過去から逃げてはいけません。あの子も分かっているはずです。」


「だからと言って無理やり真実を伝えていいと本当にお思いですか?」


「真実も事実も遅かれ早かれ… 潤くんに知られてしまいます。それは抗えない事なのです。」


「それはそうですが… 」


「もちろん、無理はさせません。ですが、真実と事実を安全に伝えるためにはこの方法しか無いのです。」


「どういうことですか? 安全に伝えるためとは…」


「シベリアでの異変はどうやら旧アメリカ陸軍関係者とイスラム過激派系組織 そして今のアメリカ亡命政府高官が関わっているとの情報が入っています。」


「まさか…」


「真っ黒な組織が動き始めている。自治政府からは直接、潤くんに制圧命令は出来ません。なので偶然を装い、対処させるしか無いのです。」


「分かりました。私がなんとかサポートします。」


「頼みましたよ。」

夏姫と井上少将、佐々木首席研究員は黒い真実を知った。

その上で夏姫はシベリアでの異変やヨーロッパの異変は旧アメリカ陸軍関係者など闇深き利権を欲しいがままにしてきた者たちが関わっていることを知り、潤くんと共に旧国家権力との争いに挑むこととなった。

次回、シベリア支部(一)

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