第5話

「大丈夫ですよ、リリィ。

 怖いのは誰も同じです。

 私が盾になりますから、私の後ろから聖の魔法を使えばいいのです」


 本質は男なのに、情けないです。

 TS転生で女に生まれたお陰で、アルテイシアの陰に隠れて震えていても、誰にも非難されることなく許されます。

 俺の自尊心、男の尊厳以外からは……


 隠れてらいれるかぁ!

 あの世があるのなら、可愛がってくれた祖母に顔向けできんだろうがぁ!

 足が震えようが、手が目に見えて震えていようが、逃げられるかぁ!

 夢の中くらい男気を出すべきだ!

 TS転生して見た目は女でも、中身は男なんだ!


「だ、だ、だ、だいじょうぶです。

 ば、ば、ば、ばしゃのかげからなら、まほうもつかえます」


「そうね、リリィはやればできる女だもの。

 なんといっても私の親友だものね!」


 そうだ!

 俺はアルテイシアの親友なのだ!

 こんな時のために、剣を学び魔法も学んできたのだ!

 ないのは勇気だけなのだ!

 勇気以外は準備万端整えてきたのだ!


「神々よ、癒しを与えたまえ!」


 王太子を助けようとして馬ごと負傷し二騎の騎士に、アルテイシアが癒しを与えています。

 

「神々よ、癒しを与えたまえ!」


 次に私が、輓馬に上で倒れ伏している二騎の騎士に癒しを与えました。

 板金鎧の上からですが、わずかに生きている兆候がうかがえたからです。

 もし何の兆候もなければ、確実に生きているのが分かる、馬車の御者台で奮戦している徒士を支援していたでしょう。


「うぉおおお!」

「御嬢様に手を出すな!」


 復活した前衛の騎士と騎馬がこちらに戻ってきます。

 王太子よりもアルテイシアを優先するのでしょう。

 まあ当然と言えば当然です。

 彼らは王家の騎士ではなく、ヘイグ公爵家の騎士なのですから。

 四人の徒士と戦っていた刺客が、素早く馬車から離れます。

 騎士に挟み撃ちにされるのを恐れたのでしょう。


「雷よ!」


 短い詠唱です。

 実戦に即した詠唱なのでしょう。

 せっかく戦線に復帰した二騎の騎士が、再び落馬転倒してしまいました。


「神々よ、癒しを与えたまえ!」


 アルテイシアが再び癒しを与えています。

 私もやらねばなりません!


「神々よ、癒しを与えたまえ!」


 多くの魔力を失いましたが、四人の徒士を同時に癒しました。

 これでアルテイシアと私が攻撃される危険は減ったと思います。


「「ギャァァァァアァアァアア」」


 輓馬に伏せていた二騎の騎士が、私の癒しを受けていたのに、死んだふりをしていたのでしょう。

 刺客のすきをうかがって背後から斬りつけました!

 これで一気に敵が二人減りました。

 圧倒的に有利になったはずです!

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