第6話

「ピィィィィィ」


 音が鳴り響くと、刺客たちが一斉に逃げ出しました。

 不利と悟ったら、次の機会をうかがって撤退するのです。

 その事が刺客たちの練度をうかがわせました。

 引き時を誤らない、恐ろしい相手です。

 

 ですがそう簡単に逃がしはしません。

 一度かかわってしまった以上、最悪の場合を想定しなければいけません。

 今度は俺やアルテイシアを襲ってくるかもしれないのです。

 刺客たちのアジトはもちろん、黒幕も確かめておく必要があるのです。

 俺は使い魔に刺客たちの後をつけさせました。


「王太子殿下、ご無事ですか?

 ヘイグ公爵家のアルテイシアと、ジェリコー伯爵家のリリィが助けに参りました!

 ご無事なら声だけでもお聞かせください。

 ケガをされておられるなら、私とリリィの聖なる魔法で癒して差し上げます」


 ああ、思いやりなんだろうが、困った!

 アルテイシアが、自分だけではなく私まで王太子を救援したと教えてしまった。

 しかも私まで聖の魔法が使えると王太子に教えてしまった。

 これで色々な家から縁談が持ち込まれてしまう。

 下手をしたら、アルテイシアと同じように王太子の妻にさせられてしまう。

 当然伯爵家のような身分なら、正妃や側妃ではなく愛妾でだ。

 これではアルテイシアと幸せな一生を送る計画が台無しだ。


「おお、その声は確かにアルテイシアの声だ。

 パーカー、アルテイシアで間違いないな?」


 王太子が護衛に声をかけて、アルテイシアが本物なのか確認しています。

 憶病なように見えてしまいますが、常に暗殺の危険にさらされている王太子なら、仕方のない警戒なのでしょう。


「はい、アルテイシア様に間違いありません。

 申し訳ないのですが、ジェリコー伯爵家のリリィ嬢の顔は存じておりませんので、ご本人かどうかは確認できません」


「それは大丈夫ですわ、王太子殿下。

 リリィが素晴らしい令嬢なのは、聖なる魔法を見ていただければわかります。

 護衛の方々を癒して差し上げて、証明してみせてあげて、リリィ」


 ああああああああ!

 完全な好意による言動だとは分かっていますが、面倒ごとが増えるだけです。

 だからといって、いまさら隠せるとも思えません。

 どうしたも隠したいのなら、震えて何もしなければよかったのです。

 王太子も護衛も見殺しにすればよかったのです。

 

 ですがそんなことなどできませんでした。

 男の見栄以前に、あそこで協力しなければ、アルテイシアが無理をしていました。

 無理をすれば、アルテイシアが殺されてしまっていたかもしれないのです。

 あの場合は他にやりようなどなかったのです。

 もうここは成り行きに任せるほかありません。


「護衛の方々を癒させていただきます」

 

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