第3話

「リリィ、聖の魔法はこうするのよ。

 一緒にやってみましょう」


「それは無理でございます、アルテイシア様。

 聖の魔法を使えるのはアルテイシア様だけでございます」


「駄目よ、リリィ!

 また私の事を様付けしている!

 私達お友達なのだから、アルテイシアと呼び捨てにしてと言ったじゃないの」


 毎度のことだが、アルテイシア様が呼び捨てにするように言ってくる。

 だけど近くにいる侍女達は俺の事を厳しい顔で見ている。

 俺が調子に乗って呼び捨てにすれば、御学友から外されるのだ。

 俺の真珠養殖で急激に力をつけているとはいえ、元々は没落寸前の貧乏伯爵家で、娘を公爵令嬢に仕えさせなければいけなかったくらいなのだ。


 まあ、使い魔とスケルトンを遠隔操作して、真珠を増産に次ぐ増産している今では、陪臣に馬鹿にされながら御学友を続ける必要などない。

 必要はないのだが、続けたいという欲望で一杯だ。

 何といっても大きな特権というかご褒美があるのだ。


 TS転生しているので、具体的に何ができるわけでもないのだが、女同士という事で、一緒に入浴するという何物にも代えがた眼福があるのだ。

 パジャマパーティーではないが、同じベットで眠ることもできる。

 子供と大人の境界線、幻のように美しい思春期のひとときを、共に過ごすことができるのだ。

 この特権を失うわけにはいかない!


「ほら、リリィにもできたじゃない!

 私の言ったとおりでしょ?

 私とリリィは仲良しなのだもの、同じことができて当然よ」


 ええ、困った。

 全く設定通りじゃない。

 いや、確かにやり込んだわけじゃないから、全部の設定なんて知らない。

 裏設定や隠しシナリオがあっても分からない。

 だけで通常の設定では、アルテイシアは聖女なのに聖女の力が発揮できなくて、悪役令嬢の陥れられる薄幸の美少女設定なのだ。


 聖魔法が使えるのは、プレイヤーが操作するヒロイン役の準男爵令嬢のエミリーだけのはずだ。

 アイドル声優が声当てしていて、有名マンガ家が描いた主要キャラクターとはいえ、アルテイシアは操作できないキャラだ。

 まして俺がTS転生しているのか夢見ているのか分からないリリィは、説明文に名前が載っているだけで、絵もなければ声当てされているわけでもないのだ。

 そんな完璧なモブキャラが、聖魔法を使えるなんて、何がどうなっているのだろう?


「ねぇ、リリィ。

 一緒に教会に行って聖女認定していただきましょう!

 仲良しの友達聖女だなんて、史上初めてではないかしら?」


 ああ、やめてくれアルテイシア!

 侍女達の視線が痛すぎる!

 俺、ヘイグ公爵家の刺客に殺されるんじゃないか?

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