第2話
予想通りジョシュアのアスキス子爵家から婚約の申し込みがあったが、父が断固として断っていた。
相手が格上の辺境伯家以上だったら断るのに苦労していただろうが、格下の子爵家なら後顧の憂いなく断る事ができる。
私は父となっているジェリコー伯爵に一生結婚しないと断言してあった。
普通なら伯爵家の体面を気にして、偽装でもいいから結婚しろと言われるところだが、私の創り出す真珠の価値に眼がくらんでいる父は、私を家から出したくないと心底思っているのだ。
どうやって結婚話を潰そうかと、ずっと考えていた事など先刻承知している。
何といってもこの世界の価値基準では、美しい真珠なら金貨百枚で売買される事もあるくらい高価なのだ。
光沢が悪く傷のある真珠でも、薬の材料として金貨五枚で売買される。
仏像真珠を参考にして使い魔やスケルトンに創り出させた神像真珠なら、金貨五百枚の値がついた事さえあるのだ。
そんな私を強欲な父が手放すはずがない。
だが保険はかけておかなければならない。
相手が強大な権力と戦力を持つ相手なら、簡単に尻尾を振るかもしれない。
私は美人ではないがブスでもない。
人並みの容姿を持っているから、どこかの物好きが好きになる可能性もある。
「父上、冒険者として実戦経験を積みたいです」
「駄目だ、駄目だ、駄目だ!
万が一の事があったらどうするのだ!
死んでしまったら取り返しがつかないのだぞ!」
そうですね、死んでしまったら、真珠を創り出せる人間がいなくなりますものね。
「はい、ありがとうございます。
ですが、海のないジェリコー伯爵領で真珠を手に入れて売り出している事、どこの貴族家もいぶかしく思い、密偵を潜入させていると思われます。
秘密で探りだせないと判断すれば、私を嫁に貰って口を割らそうとする上位貴族が現れるかもしれません。
そうでなくても、私を嫁に貰って縁を結び、ジェリコー伯爵家から支援を引き出そうとするかもしれません。
そんな事にならないように、冒険で大きな傷を受けた事にするのです」
「どう言う事だ?
手足を失った事にするのか?」
それは貴方が考えていた事だろうが!
私を暴漢に見せかけた者に襲わせ、足を切り落とそうと計画していただろう。
この人非人が!
「そんな事はしませんよ。
それでは間違って死んでしまうかもしれませんし、真珠を創り出すために動けなくなってしまいます。
そうではなくて、顔に醜い大きな傷を受けた事にするのです。
普段は仮面をつけていれば自由に動けますから、真珠作りを続ける事ができます」
こう言っておけば父も二度と私を害そうとは考えないでしょう。
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