8.2話 初めての戦闘 続

 

 待て、今大切なのはそこじゃないだろう、この事は後でゆっくり考えよう。今は竜族がここに帰ってくる前に脱出しなければ。


『ティア、合図と同時に斬りかかるぞ』

【了解しました、ご主人様】


 タイミングを見計らい、心の中で5秒数える...


 5... 4... 3... 2... 1...


『今だ!!』


 僕は思い切って石の後ろから飛び出した。両手に持つ魔剣がとても重い、でもここを突破しなければ龍に殺されるだろう。しっかりしろ、僕!!


『ウォオォオー!』


 僕は最も近くにいたゴブリンに勢いよく斬りかかった。ここだ と直感的に思うその瞬間、僕は首元を狙って魔剣を振るった。後ろから風を斬る音が聞こえる。


 ヒュン、ザシュッ


 そして風を斬る音に続いて、何かを斬った手応えがあった。ゴブリンを斬った、そう直感した。そして僕はそれを確かめるため、魔剣を振り下ろす時に閉じていた目をゆっくりと開けた。


 『ウゥ...』


 思わず呻き声が漏れた。まるで僕の目が吸い込まれたかのように目の前に広がる惨状に目を離せない。まるで自分を見ろ、と言っているかのように...


 僕の視界には頭部を失った小さな緑色の体が赤い鮮血で血塗られている。まだピクピクと痙攣を繰り返しもしている。吐きそうになる。

 そして肝心の頭部はというと、少し離れた所に落ちていた。瞳孔を開いていたその目は僕を見つめていた、いやまるで僕を見つめている様に見えた。その目は僕に訴えていた。その時、その目を見ていた僕はある事に気づく。この惨状を引き起こしたのは僕という事実に。その事実に僕は頭を抱えた。


 そう思った時、僕は何故かあの血塗れのワンピースを着た少女を思い浮かべていた。そして僕は思った。


 一体彼女は何を思って人を殺していたのだろうか?そして、僕も...




 ...ッ!!


 僕は背後からの殺気により現実へと引き戻された。横に躱す。


 ピュン


 僕の耳の辺りを矢が通り過ぎた。今のは普通に危なかったわ、うん。そして背後を見ると次の矢を既に構えたゴブリンがこっちを狙っている。今はこんな事を考えている暇はないな。今は生き残る事が最優先だ。


 そうして僕は覚悟を決め、次のゴブリンに斬りかかった。首元に一撃。そうしてそのゴブリンの首が転がり絶命する。その事は、多少なりとも覚悟をしていたにも関わらず、それを無視した激しい罪悪感が僕を襲う。このモンスター達にも家族、友人、そして守りたい者がいるのに...


 次のゴブリン、次、次。次々とたくさんのゴブリンが殺されてゆく。殺しているのは僕だ、僕自身だ。

 僕はずっと自分に言い聞かせた。僕は自分の身を守るために殺している、そしてその事は彼らにとっても同じだ、だからしょうがないのだ、と。


 でも、この事は自分でも騙しようがなかった。この事だけは...


 そう、僕は笑っていたんだ、心の底から。ゴブリン達の死ぬその瞬間に見せる表情、殺されるという恐怖と家族を思うその表情に対して心の底から笑っていたんだよ。なんでだろう、この感情がとても懐かしいんだ...


 そして最後の一匹のゴブリンを殺したその瞬間、僕は大泣きしながら意識を失った。


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『ここは?』


 僕は目を覚ますと思わず言葉を失ってしまった。目の前には可愛い天使の様な女の子の寝顔がどーんと目に入ってきたからだ。僕は地面を蹴って彼女との間に距離を取った。


 この子一体誰だよ?なんで僕の目の前で寝てるの?僕はどうなったの?ここどこ?てか魔剣はどこに?


 僕の頭の中はクエスチョンマークで埋めつくされた。

 落ち着け、僕落ち着くんだ。こうなったら情報整理しかない。


 えっと僕は洞窟の出口へと向かったらゴブリンの群れと遭遇して、それでそのゴブリンを倒して...そして意識を失いここにいる。


 うん、ここにいる意味がわからん。てかここって外だよね?


 そして僕はもう一度この女の子の顔を覗いてある事に気づいた。


 あ、この子知ってる。ティアじゃん。


 そう思った僕は警戒を薄め、ティアが起きるまでここで待っている事にした。そう、僕はやっとの事で異世界の地を踏めたのであった。

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