3話 竜族四天王【不死竜】ギオラ

 グオァアーーー!


 鋭い咆哮と共に、真っ赤な鮮血がドラゴンの尻尾から飛び散る。切り落とされたのは尻尾全体の約半分程で、切り口はとても綺麗だ、わーお。


 «ぐっ、この我が怪我を... おのれ魔族めが。逃げ回り、遠くから魔法で攻撃するなど卑怯者のすることだぞ。恥を知れい!»


 咆え終わると同時にドラゴンは7色の光を纏い始めた。図体全体をその光が包み込んでいく... てか今魔族って言った?


 «見よ、低級な魔族!これが我ら竜族の中で我のみ使用するが許されている禁忌術。無属性魔法、 “Reincarnation”»


 ドラゴンの身体を守るように包んでいた光が、切り落とされた尻尾の切り口へと集まっていく。


 全ての光が切り口に集まっその瞬間、眩い光とともにドラゴンの尻尾が驚くべき速さで再生していった。まるで切り落とされてはいなかったように完璧だ。やっぱり絶対剣いらない!


 «ガーハッハッハッハ、これが我らが竜族の魔法。この無属性魔法は初級魔法程度の魔力しか必要ないのでな、竜族ならば制限無しで使用出来るのだ。貴様のような弱卒が我が首を落とそうとするとは... 竜族も見くびられたものだ。我の頭を取らんとする者よ、隠れずに姿を表せ。正々堂々と勝負した後、竜族四天王が一翼、【不死竜】ギオラが自ら息の根を止めてやろう。»


 その時、僕は何故今まで気付かなかったのか不思議なくらいのことに気付いた。僕は今遥か上空に転移され、地上に落ちていっているはずなのだが、何故か僕の体は空中でなにかに掴まれているのか落ちていっていない。地面も相変わらず見えてないし、さっきから積乱雲との距離でさえ近づいていない。助かった!いや待て...


 僕は... 今浮いている、のか?


 いや違う。浮いているのであれば、女神に会った時から着ているローブが引っ張られる筈がない。僕は何者かに上から吊り下げられているらしい。だが一体誰がなんの為に?


 この難問に直面した僕の脳は突如、ギャルビッチと会ってからこの状況までに手にした情報を細かく分析し、仮説を考えては否定する事を呪われた様に繰り返した。最終的に、僕はある結論を導き出した。


 ...こんなに考えなくても上をちらっと見れば良かった話じゃん!


 という訳で、僕は覚悟を決めて、上を見てみた。まず真っ先に目に入った物は、大きい黒い翼と頭に生えている角だった。アズリエルが僕に説明した通りだ。聞いていた魔族の特徴と完全一致、魔族だと断定。その魔族は今、僕の着ているローブの1部を口で咥え、僕を掴んでいる。口で咥えている理由は、その魔族の両手両足が塞がっている為だった。彼は平伏しながら手を頭の上で拝むように合わせ、震えていた。


 つまり僕は今、あの竜の尻尾を魔法で切り落とした魔族に掴まれているらしい。


 そして魔族は言った。

「この人族を貴方に捧げます。そのためどうか今回はお慈悲を、お見逃し下さい。」


 おお、凄い。僕の上着を咥えているのにも関わらず、しっかり話せている。この芸で食べていけると思うが?竜族相手に勝ち目のない戦いを挑むよりよっぽどいいと思うのだが、それは僕だけか?


 あの明らかに普通ではない無属性魔法の回復力に恐れをなしたのだろう、魔族はドラゴンの返事も聞かずに僕をドラゴンへ投げつけ、その隙に全速力で逃げていった。


 魔族の次はドラゴンへという圧倒的な絶望感の中、僕はローブのポケットに何かが入っていることに気付いた。ポケットの中からピンク色の煙が漏れている。咥えられていた時に入れられたのだろう、怪しい物なのは確かだ。しかしこの桃色の煙はとてもいい匂いがする...


 辺りにピンク色の煙が広がっていくにつれ、頭がぼーっとしてくる。

『あれ、急に眠気が...おか..しい...な...?』


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 気が付くと、僕は暗い空間にひとりぼっちで膝を抱えて座っている。

 そこには一つのスクリーンがあり、白黒の映像が流れている。それは僕にとても似ている小さな男の子が訓練らしき物を受けている映像だった。走り込み、筋トレ、格闘訓練、射撃練習、そして模擬戦、どれも過酷だ。なのに彼はどんなに過酷な訓練でも表情を変えることはなかった。他の子供との模擬戦でも、相手は人に暴力を振るうことに躊躇するのだが、彼は全くしない。たとえそれが彼の肉親でも...


 周りの人々は彼の事を道具として扱うようになった。どんな時でも彼は何も感じず平気で殺しを実行したからだ。だが、彼にも感情はあったらしい。1人目のターゲットを殺した時、初めて彼は表情を変えた。彼は満面の笑みで笑っていた。周りから人型ロボットとして認識されていた彼が、誰にも見せなかったその笑みを初めて見せたのだ。彼にとっては暗殺も他の遊びと同じように考えているかのように......


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『!!ッ』

 僕は目を覚ました。体中から汗が噴き出している。

 僕は薄暗い洞穴の中に居るようだ。


『今のは夢...か。今のは一体誰だ...?彼は僕とそっくりだった。それに彼女があの映像に一瞬だけ出てきた...』僕の頭の中に血まみれで笑いかけていた彼女が浮かび上がる。


 その時、僕は記憶が曖昧だったようだ。夢の事が気になり、魔族が竜族、しかも竜族四天王の一翼に僕を囮として使った事など全く覚えていなかった。そのため、何かが声をかけてきた事に心臓が飛び上がったのはしょうがない。


 «お目覚めになった様だな、人間よ。»


 僕は突然の背後からの威圧に思わず吐きそうになった。その姿を確認する必要もなく、彼が僕より圧倒的に強いという事が分かる。

 僕は物凄い威圧により金縛りにあったように動けなかった。それでも力を振り絞って首を強引に回した。そこには、少し動かすだけで物凄い風圧を作り出すことが出来る大きな翼、まだ真新しく見える尾、つまり間違いない。この竜こそが先程魔族と戦っていた竜、ギオラだ。


 «改めて紹介しよう。我が名は 竜族のギオラ、竜族四天王の一翼である。そして人間よ、貴様の名はなんというのだ?»



 3話END

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