2話 ドラゴン。そして初めての魔法
今、僕は人間として生きていたのなら普通はありえない問題に直面していた。僕は今青い空と雲以外が見えない程の上空から落ちていっている。多分数メートル上は空気が無いぐらい高い所からだ。もう一度言おう、僕はかなりの速度で落ちている。呼吸をするのが難しいぐらい高い所からだ。
でも呼吸をするのが難しいという事実に気付いた時、僕の背中を悪寒が走っていった。
呼吸がしにくい現実、この感覚。この呼吸がしにくい感覚。以前に一度、同じように呼吸をするのが難しい状況に陥った事があったような気が...
ドクン... ドクン...
心臓の動く音が耳に響いている。どこかで聞いたような音。
僕の頭の中にまた彼女のイメージが浮かぶ。前回は麦わら帽子を被り、白いワンピースを着ていた彼女は今度は白いワンピースを赤黒い液体で汚し、満面の笑みを浮かべている。血に見えるその液体は? 彼女の手には何かさえわからない赤黒いピクピクとかろうじて動いている細長い物体があった。
<お兄ちゃん、この人の腸はお母さんのより綺麗だね。もっと綺麗なのあるかなぁ?>
ドクン... ドクン...
またこの子だ、この頭のネジが外れている子。僕の妹らしいが、全く覚えがない女の子。
ドクン... ドクッ
心臓が張り裂けそうだ。そう思った刹那、そのイメージはまた消えた。僕は現実に急に引き戻された。心臓はまだ鼓動を早めている。
落ち着こう。焦れば焦るほど、状況は悪くなってしまう。
冷静に考えてみるとあの女神の事だ。この状況は、どうせあのギャル女神が僕を転移した時に座標でも間違えたのだろう。もしかしたら、ただただ言い忘れていたのかもしれないが。(もしそうだった場合は今度あった時には... まあ、どうにかしてやる。)
.....................
〔神界内 転生/転移神アズリエルの部屋〕
ブルルッ
<なんか急に悪寒がしたっス。誰かに恨まれる様なことしたかなー?>
*めちゃめちゃ恨み買ってます。そしてそれは主に他の世界に転移した勇者達からです。
................
ま、どうせ地面衝突直前に速度減速魔法とかでちゃんと生き残れるんでしょがね。なんだかんだいって本当に僕を転移出来る女神様なんだからその辺はちゃんとしてそうだし。
そう考えるのは大丈夫なんだろうか?
もし減速しなければ...
その時僕は頭から地面に衝突する事を想像してしまった。
〔四葉柊の脳内now〕
勇者として遥か上空に転移したよ→地面衝突しちゃた、テヘペロ→色々体がおかしくなっちゃった→地獄行き特急列車に即乗車→閻魔様とご対面だよ♡
絶対に嫌だ。
まぁ、前提としてそ、そんな事になる訳がない。腐っても女神は女神。彼女を信用してこのままこの天空の旅を楽しもう...
信用出来るのだろうか、あの女神を。
どうやら僕は正しかった、地面と衝突死はしない。でも閻魔様とのご対面どうしても避けられないらしい。
僕は異世界に来て数分で死神に目を付けられたようなのだ。
残念ながら変わったのは僕の死因だけだった。衝突死では無くなったが、代わりに僕の死因は感電死のようだ。今僕の下には大きな積乱雲が光りながら迫って来ている。
最早避けようとするにしても避けられない。
僕は覚悟を決めようとしてみた。死ぬ覚悟を、だ。でも無理だった、だって僕は最強クラスの勇者だと同時に記憶を失ってはいるけど人間だもの。
人間である僕があとどれ位積乱雲から離れているかと下を向くと、そこには離れた所からでもよく分かるほどの黒い影があった。その影はドンドン浮かび上がってくるー。
そしてその影の大きさに気付いた時、僕はその時叫ばずにはいられなかった。
『なんだあいつー!』
ぐぉおぉォォォン!
まだ数百キロ程離れている筈なのに空気の揺れが凄い。その音は鳴き声というにはあまりに大きすぎだ。
近づくにつれて、その鳴き声の主の姿が浮かび上がってくる。そしてその輪郭はまるで...
ガぐぉおぉォォォーン!!
『ドラゴンだ~!』
僕は本当に異世界へと転移した事を実感した。ドラゴンを見たのなら、誰だって認めるだろう。記憶がないとはいえ、元の世界の常識は何故か持っている僕にとってその姿はまるで神のような神々しさだ。あのギャル女神とは格が違う、あれと比べること自体が間違っているのだ。その姿にはあのバカ女神にはない確かな神のような威厳があった。
雲層から急にドラゴンが飛び上がった。身長は大幅に100mは超えている、横には約80m程だ。尻尾には大きな棘のような物がたくさん付いている。化け物、そうとしか言えないレベルだ。
何かが雲から飛び出した。
ヒュン! シュパン。
『え.... はいっ?』
その時、僕は自分の目を疑わずにはいられなかった。バケモノドラゴンの長い尻尾が突如飛んできた黒い物体で切り落とされたのである。
『今のは?... 今のがアズリエルの言ってた魔法ってやつなのか。』
あの攻撃魔法は雲の下から放たれて、雲を貫き通りドラゴンに当たったのか。
僕はその威力を目の当たりにし、とても驚いていた。どんなに鋭い剣でも一撃で斬ることは出来ないと思う程硬そうに見えた尻尾を、魔法は一撃で切り落としたしまった。
『これが魔法の威力... 思ったより強力なようだな』
僕はこの光景を見てこう思った。
そして気付いてしまった。
あれ?この世界って剣と魔法の世界だよね?
もう一度言いますよ、ソードとスペル の世界ですよね?
もしこの世界の剣が僕の思っているような事だとすると、もしかしてだけど... もしかして、いやもしかしなくても......
......... 魔法が強すぎて、剣ってこの世界に要らないのでは?
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