第3話
二日目のプログラムは『この世界の秘密を知ろう』というものでした。
なんと、矮小無力な一般市民である私などに、そんな重要なことを教えてよいのでしょうか。
なんだか、わくわくするような怖いような複雑な気持ちになりました。
そんな私の葛藤など意に介する様子もなく、事務員の方はおよそ事務的に、私を例の扉の前へと案内しました。
今日も風になるのでしょうか。
そういえば、私はまだこの場所で私と同じような存在に出会っていません。事務員の方は、数人お見かけしたのですが……。
もしかすると、意図的に死人同士が出会わないようにしているのかもしれません。
例えば、そう、生前不倫関係にあった男女がばったり出会い(彼らは心中したのです)、そこへ、死んだ夫を追いかけた妻ともばったり出くわしたらもう大変。小突きあって罵り合っての大惨事!
なんて昼ドラのような展開が天界まで持ち込まれる羽目になるやもしれませんからね。
そこまで想像して、にやりと笑った私に、事務員の方が言いました。
「これからこの中で見聞きすることは、今後何があっても他言してはいけません」
「どうしてですか?」
「世界の存続にかかわる、重要なことだからです」
それがどうして、他言してはいけないことに繋がるのでしょう。
「よく、わかりませんが…」
「そういうものなのだと、理解してください」
いまいち納得いかないものの、私は了解しました。
これが、いけませんでした。
あんなの、誰かに話したくなるに決まってるじゃありませんか。
生前、わりとおしゃべりな方だった私です。じっと黙ってなどいられません。
しかし「創造者」の偉大さと恐ろしさも、この扉の中で知ってしまった私です。
結局、はけ口の無いいくつもの感想は、私の中でぐるぐると旋回するしかないのでした。
ですからここでは、あの扉の中で何を見たのか(ほんの少しだけですから、神様許してください)概要だけでもお伝えしようと思います。
扉を開けると、案の定、私はまた風となりました。
風としての在り方を昨日一日で会得していた私は、意気揚々と空間を吹き抜けました。 とっても気持ちのいいものでした。
けれど、ひとつだけ文句を言うとすれば、そう、進む方向を自分で決められないということです。あっちへ行きたいと思っても、体は別の方向へと引っ張られるのでした。
やがて、昨日と同じ七色の光が見え始め、私はその中へと吸い込まれました。二回目ともなると、別に不安ということもありませんでした。
そこがどこだか、すぐにわかりました。 幸せで、とにかく満たされた空間。
母のお腹の中です。
急速に、体が縮むのを感じました。そして縮んだ体は、いくつかにちぎれ、さらにちぎれ、細かい細胞のようになりました。その状態で、私は飛んでいきます。
ああ、もう、すべてを話してしまいたい。 しかし、そうできない事情がこちらにもあるのです。わかってくださいね。
結局、私が見たものは、人類、そしてすべての生き物が誕生したメカニズム。それから、地球が、太陽が、月が、すべての惑星が誕生したメカニズム。すべての始まり、宇宙が誕生したメカニズム。そのようなものです。それから、この世界の真の支配者の存在も欠かせません……。
これくらいにしておきましょう。
ですが、私はこの秘密を最後まで見ることはできませんでした。 なぜかというと、私が現世に生き返ってしまったからです。
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