634・本拠点へと至る道

 何とも奇妙な出会いを経て手に入れた剣を携え、次の日には私達は再び歩き出した。クロイズは朝までには落ち着きを見せ、彼が目が覚めたころにはすっかり元気になっていた。だからこそこうして歩いているというわけだ。

 私と雪風はアスルと出会った事や剣を貰った事を話して、その剣を見てヒューが笑い転げて……昨日の夜から朝まで色々とあったけれど今では粗方収まっている。……後、私の腰にもその奇妙な剣が収まっている。


「それにしても本当に不思議な剣ですよね。猫人族に好かれていると切れ味が上がるなんて」

「恐らく何らかの魔法効果が込められた剣なのだろう。過去の時代には魔力を用いて武器に能力を持たせるやり方が放ったからな」


 相変わらず見てきたかのような言い方だ。


「それよりクロイズ、体調は本当に大丈夫なの?」

「ふはは、心配無用だ。いくらか弱き器といえど、戦う目的で使用しなければある程度耐える事は可能だ。もちろん、戦えば間違いなく死ぬのだがな」


 はっはっはっ、と気楽そうに言ってくれる。そんな事で死なれたらこっちの夢見が悪い。だから彼には出来る限り生き抜いてもらわないとね。


「それで……遺跡まではあとどれくらいだ?」

「もうすぐだ」


 既に彼が言っていた大きな木は過ぎて現在はそこから北西に向かっている途中。それなりに長い距離を歩かされたことからいつ辿り着くのかと疑問に思ったようだ。……ヒューは面倒くさがりだから単純にどれくらい距離があるか聞きたかっただけなのかもだけど。


 クロイズが言った通り遺跡はその後すぐに見つける事が出来た。それなりに目立ってはいるけれど、半分埋まっている神殿みたいな感じ。蔓や苔が覆っていて、あまり興味を惹かれない。

 そこからクロイズの話通り更に西。野原が広がっている中、更に私達は歩みを続ける。ここまでクロイズが案内してくれた道と情報は完全に一致している。このままいけば間違いなくダークエルフ族の本拠地。いわば敵地に突撃するという事になる。少し緊張してきた気がする。


 ここまで来ると私以外の子達も互いに話をせずにだんまりになった。敵地がいよいよ近いと思えばそれも当然の事だろう。緊張感が全体を支配している中、ただ黙々と歩き続けるだけの時間が過ぎる。野原を進んでいくと花畑が見えてきて、そこに墓が一つ立っていた。


「……墓?」


 聞いていた情報と若干違うのに首を傾げる。確か『何か掘り返した跡』とかいう曖昧な表現だったはずなのに、実際にはこんなに目立ったものが鎮座している。


「ああ、その墓に何の意味もない。花畑を彩る飾りのようなものだ」


 クロイズはいつもの調子とは少し違って、ぶっきらぼうに返していた。まるで触れて欲しくないみたいだ。


「飾りというのにはいささか無理があるような……」

「汝らの目的はダークエルフ族の本拠地であろう? ならば余計な事に気を回す必要はあるまい。あれは既に名前すら忘れられた者の墓よ」


 花畑を横切るように先に進む。ジュールは何か言いたそうにしていたけれど、私が首を横に振ってやめておくように指示を送った。ここで彼に機嫌を損ねられても困るからね。


 ジュールの何とか理解してくれたようで、結局何も言わずにいてくれた。花畑を通り過ぎて先に進んだところに大きく何かを掘って埋めたような跡がある。そこでクロイズが止まったのを察するにここの事だろう。特に何か変わった様子もない。魔導の実験をして思った以上に威力が出たから埋めたと言われても『そうだろうな』と思う程度。こんなところに地下があるなんて考えにくい。


「準備はいいな?」


 頷くとクロイズは埋められた土の端に思いっきり手を突っ込んだ。いきなり何をしているのだろう? と思っていると、ぐっと力強くそれを持ち上げた。どうやら扉だったらしく、土を押しのけるように扉が開かれていく。扉が隠れる程度の土だったようだ。上に開けれるように取っ手が付いているけれど、恐らくこれに何かを引っ掛けて開けているのだろう。そういう傷がついている。少なくともこんな風に開けるものではなさそうだ。


「……また随分と豪快ね」

「これで我が役割も終わり故な。後は汝らだけで進むと良い」

「一緒に来ないのですか?」


 てっきりこの後も付いてくると思っていたのか、ジュールは不思議そうな顔をおしていた。以前なら怪しいものを見るような目をしていただろうから少しはクロイズの事を信用している表れだろう。


「我を守りながら戦うのは汝らも苦しかろう。やはり本来の姿に戻るのは少々無茶が過ぎたようでな。戦う事もままならぬ」

「そう……ですか」

「なに、身を守りながら適当に隠れるくらいは出来る。だから案ずるな。己の道を征くがよい」


 笑みを浮かべたクロイズからは嘘は見られない。彼は元々あまり戦えないと訴えていたし、これ以上付き合わせるのも難しいだろう。


「……わかった。貴方も無茶しないで生き延びなさい。いい?」

「ふふっ、善処しよう」


「あんたにはまだ聞きたいことがあるからな」

「そうか。ならば生きてまた会おうではないか」


 いつもの調子で笑う彼を残して、私達は奥へと向かう。カンカンと冷たい音を響かせてゆっくりと降りていくそこは、まるで奈落へと向かうかのようだった。

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