553・幕を降ろした戦い(ファリスside)

 ファリスはフィシャルマーのサポートを行っていた敵兵の首を全て刎ね、応援と駆け付けた時にはある程度終わっていた。


「なるほど。流石ね」


 この一連の戦闘。ククオルが【幽世かくりよの門】に似た広範囲の魔導を放つことが出来て戦線を絶えず維持していた。彼女がいなければ――もしくは扱えなかったなら、ワーゼル達はここにいなかったかもしれない。


(それならそうでわたしがなんとかすればいい話だけどね)


 例え最悪を想定したとしても自分が何とかすればいい。ファリスは強気に考えていた。その自身の一つが【神偽崩剣『ヴァニタス・イミテーション』】の存在だった。どんな敵でもこの剣の前では無意味だ。デメリットといえば、剣の能力を全て解放した状態である【カエルム】でなければ魔導を使用することが出来ないという制約と、それを発動させると三日は神偽崩剣を呼び出すことが出来ないということだ。他にも剣を振って数秒後に斬撃が発動するというタイムラグも存在するが、そんなものは相手の行動を予測出来れば何の問題もない。


 最初の二つを気をつけていれば彼女にとっては最強の切り札だ。自信の源となるのも当然だろう。


 ファリスが自身の中でも最強を自負している剣を残ったゴーレムを一掃する為に振るう。例えどんなに遠くても自らの視界に収まっていれば攻撃することが出来る。【シックスセンシズ】との相性も抜群であり、近中遠の全てを網羅もうらすることが可能となる。

 結果的に余裕で歩きながら適当に剣を振るだけで次々とゴーレムを斬り捨てる壊していく結果になった。ここまできたらもはや戦闘ではなく作業でしかない。ファリスが退屈気味な表情になるのも無理はないだろう。


 振れば斬れるのだから、一撃で命を奪うことなど容易い。自然とファリスは先程のゴーレムとの戦闘を忘れかけていた。一人ではリュネーを守るミッションをこなすことは出来なかっただろう……。そう思わせることが出来たのがフィシャルマーの最大の功績だったのかも知れない。


 突如アーマーゴレムやメシャルタが次々と機能停止に追い込まれていくのを見て驚愕していたワーゼル達だったが、悠然と歩いてくるファリスを見つけると歓声の上げた。


「ファリス様!!」


 彼女の様子からして戦っていたゴーレムを打倒したのだろうと判断したワーゼルは嬉しそうに走り出す。オルドとユヒトは警戒を怠らず、ククオルはリュネーの様子を案じていた。


「そっちも大方終わったみたいね」

「はい。ファリス様、お怪我されているようですが……」


 血が溢れ裂傷となっている左肩。【シックスセンシズ】で増幅した痛みすら気にならない程に激昂していた。それを今思い出したのか、じくじくと徐々に痛みが戻ってきた……のだが、彼女は気にしない事にした。理由は単純。これがエールティアに与えられたものではないからだ。愛おしい者からの痛み以外、彼女は決して認めない。一途と言えば聞こえがいいが、要は感覚が異常なだけである。


「問題ないわ。それより、早く撤収しましょう」

「ええ? ですが……」


 どう見ても問題ない訳がない。なおも追いすがるワーゼルだったが、それを遮るようにオルドの鉄拳が彼の頭に降り注いだ。


「いっっっっーー!!??」


 遠慮なしの一撃にワーゼルは視界がちかちかとする程の痛みと衝撃に悩まされた。何をするんだと睨むわけにもいかず、抗議するかのように頭をさすっていた。


「ファリス様が大丈夫だと言っているんだ。なら心配でも口に出すな」

「わ……わかりました……」


 オルドの一喝でワーゼルはしぶしぶと引っ込んでしまった。上が大丈夫なのだと言っているのだ。未だに敵陣の真っただ中にいるのは違いない以上、まずは自分の命を失わないように行動する。オルドに教えられていた事をワーゼルは思い出した。


「ですがワーゼルさんが心配するのもわかります。せめて治療系の魔導で傷を治してはどうですか?」


 しかしククオルの言葉で再び状況が戻る。今までそんな質問をされた事がなかったファリスは困ったような表情をしてしまった。


「わたしはそういうの苦手だから」

「ですが、少しは出来るのではないですか? 貴女様程のイメージがあれば――」

「ない訳じゃないけど、ちょっとね。それより、早くここから離れましょう。いつ敵が気付くかわからないしね」


 食い下がるククオルに言葉を濁して話を切ったファリスは、町から出る事を促した。そう言われてしまったら何も言えなくなる。自然と荷物をまとめて自分達の拠点に帰る事を優先にするようになった。ファリスがが手伝おうとすると――


「肩の痛みがまだあるでしょう。ここは私達に任せてください。ファリス様は少しでも体力を回復してください」


 とユヒトに言われ、オルドもそれに納得して無理やり座らせてくれた為、仕方なく大人しくすることにした。リュネーを除いた全員がせっせと動いているのをぼーっと眺めながらファリスは昔を思い出していた。エールティアが怪我人の治療をしていた時、自分があまり動かなかったから何もしないなら出ていくようにと言われたあの時の事。結局怪我人を運んだりと手伝いはしたが、身体を癒すことはしなかった。


(わたしの【リ・バース】はそんなに気楽に使える魔導じゃないものね)


 別に治療に加わらなかったことに後悔はない。ふと思い出したのはククオルにも治療系魔導について言及されたからだ。彼女の【リ・バース】は【カエルム・ヴァニタス・イミテーション】を用いた時以外の傷を癒すことは出来ない。元々癒えない傷をつけられるあの剣に対する一種の対抗策としてのイメージを持たせた魔導なのだ。ただ、彼女のプライド的にわざわざそんな事を言うなんて出来ない。ククオル達も治療する事は出来ないようで結果、とりあえず応急処置をして血を止め、後はぼんやりと準備を見守るしかなかったのだった。

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