552・クーティノスを仕留めろ(ワーゼルside)
「くそっ、数だけは多いな……!」
悪態をついているワーゼルの頬を鋼鉄の爪が掠める。ククオルの【
兵士達とリュネーはククオルに任せ、残りの三人はゴーレム達の相手に精を出すことになったのだ。
一般兵ではまず相手にならない性能を誇るゴーレム達が数体。そしてクーティノスは魔導の効果を低下させ、メシャルタは物理攻撃への防御に長けている。その合間を縫うようにアーマーゴレムが攻めてくる。兵士達の相手をしなくて済むと考えても十分に脅威であることは間違いなかった。
「ワーゼル! そっちに行ったぞ!!」
「わかりました! 【ハードメタリック】!」
オルドの掛け声に反応して発動された魔導により、自らの得物である剣がより硬くなった。襲い掛かってくるクーティノスに向かって思いっきり剣を振り下ろす。噛みつこうとしていた顔面に力強く叩きつけられたそれは、クーティノスの頭をひび割れるのには十分な威力をしていた。それをものともせずに噛みつこうしてくるのは流石無機物というところだろう。
「隊長!」
「任せろ」
噛みつこうと口を動かしているクーティノスを剣で何度も叩きつけている間に別のクーティノスが吠えながらワーゼルに向かって突撃しようとしていた。今度はオルドが割り込む様に立ちふさがる。
「【パワーナックラー】」
構え、魔導を発動させる。オルドの拳に魔力が纏わりつき、拳の打撃力を上昇させる。自己強化している間に標的をオルドに変えたクーティノスが襲い掛かる。振り下ろされた右爪を避けると同時に顎に拳を叩きこむ。身体全体をバネに変えたかのようにしならせ、僅かに身体を沈ませて勢いに任せてアッパーを繰り出したのだ。ビキビキと音を立てて拳を見舞った場所がひび割れ、砕けてしまう。
「……相変わらず恐ろしいですね」
その様子にワーゼルは苦笑いをしてしまった。オルドのメイン武器は斧なのだが、魔導によって強化された拳はそれに勝るとも劣らない破壊力を秘めていた。もちろん格闘術を学んでいる訳でもないのであくまで素人の域を出ない程度ではあるが、それでも十分だった。
「ワーゼル、よそ見をするな」
「はい!」
鉱物で作られたクーティノスの顎を粉砕し、更に拳を振り上げ、砕けた顔面に向けて殴り抜き、核まで粉々にしてしまう。倒れたクーティノスを横目にワーゼルの様子を窺うと、彼の方も噛みつかれる寸前の状況から上手く脱し、懐に潜り込んで腹の辺りに強化した剣で突きを放っていた。一度で完全に砕くことが出来ずにひびが入るだけだった。
「くっ、本当に硬い……!!」
これが槌ならまだ有効打が与えられたのに……などと内心で愚痴っている間にクーティノスが踏みつぶそうとしてくる。それを辛うじて避ける事に成功し、再び全く同じ場所を刺突を加え、身体を砕くことに成功する。ちょうどそこに核があったおかげで動きを止める事が出来たワーゼルは、一息ついてオルドの方を向くと……既に三体のクーティノスを破壊している姿がそこにはあった。
「オルド隊長、凄いですね……」
「お前が未熟だからだ。帰ったらまた訓練だな」
(それは貴方の力が異常だからですよ……。なんて絶対に言える訳がない! ……はあ、戻ったらまた特訓か)
オーク族と魔人族では体格も何もかも違う。もちろんワーゼルがオルドと同じように拳でクーティノスを粉砕出来る訳がないのはオルドも知っている。要はこれをダシにして更なる特訓を課そうという魂胆だったのだ。
「お二人とも随分余裕そうですね」
深いため息をして顔色の悪いユヒトが少し息切れをしてやってきた。ククオルが兵士達を引き付けている以上、メシャルタの相手を出来るのは彼しかいない。必然的に掛かる負担が増大し、一体倒すのにもひいひい言っている有様なのだ。……もっとも、彼の顔色が割る9位のはそれが原因という訳ではないのだが。
「ユヒトか。そっちはどうだ?」
「なんとか。それよりもあっちの方が気になりまして……」
言いにくそうにファリスが戦っている方向へと視線を向ける。戦いで多少離れる事になった彼らは、ファリスが今どんな風に戦っているのかよく見えていない。しかし、尋常ではない雰囲気にのまれそうになっているのは感じていた。先程までダークエルフ族が歓喜の雄叫びを上げて以降包まれている異様な寒気。その出処がファリスである事は間違いなく、彼らも気に放っているのだが――
「次が来るぞ! 警戒しろ!!」
オルドの鋭い一言でそれは阻まれてしまった。ユヒトとワーゼルは顔を見合わせ、再び戦闘態勢を取る。油断している者は死んでしまう。彼らもそこのところは骨身に叩きこまれていた。
結局、ファリスが後方の部隊を壊滅させるまで彼らはゴーレム達を必死に食い止めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます