534・囚われのお姫様(リュネーside)
ファリス達が作戦を練り、リュネー救出の為に動いている時――肝心のリュネーは牢獄の中にいた。
ほとんどボロ布のような服を着せられ、暴行を受けた後が痛々しい。つい先ほども散々棒で叩かれたため、骨折している箇所もあり、ところどころが赤くなっている。手と足に枷をされ、腕には史実を元に復元された不完全な
その繰り返ししか出来ない物に成り下がったかのような有様だが、ほんの僅かでも傷を癒し続けなければ次の日の暴行に耐え切れずに呆気なくその命を散らしてしまうだろう。生きる事を諦めない姿は強い精神を持ち合わせていると言える。
――が、満足に呼吸すら出来ない猫耳と尻尾の生えた少女が吊り上げられた腕も相まって無防備な姿を
(あと……どれだけ耐えればいいのかにゃ……)
荒い息をゆっくりと吸い、吐いているリュネーは白くなりつつなる頭の中で途切れそうな意識で僅かな思考をする。何日も経ったような気もするし、何年も過ぎたような感覚すらある。食事の時間すら冷めたスープを器具を用いて無理やり喉に流し込まされ、パンを無理やり喉奥へと突っ込まれる。肺と喉を傷めつけないのは彼女に治癒魔導を使わせるためであった。僅かに生きる可能性があれば必死に掴もうと手を伸ばす。彼らはその様子をせせら笑いながら眺めるのだ。
コツコツ、と乾いた音が響く。その音にリュネーはびくりと身体を震わせる。この音は誰かが近づいてくる合図。そして……凄惨な拷問が始まる響きだった。頭の中が恐怖で支配される。今度は何をされるのだろう? 耳に穴をあけられるのか? 尻尾をハンマーで打ち下ろされるのか? 腹や顔を殴られ、棒で痛めつけられるのか――今までされた暴行の数々が脳裏に蘇り、問答無用で恐怖のどん底へと叩き落される。
心は決して折れないと誓ってはいても、暴力にその身を晒されていたのだ。自然とそれを思い出し、身体が震えるのも仕方のない事だろう。音が少しずつ近づいていき、彼女の牢屋の前で足が止まる。
そこにいたのは二人の男女。ダークエルフ族である事は言わずもがなだが、その顔は些か強張っていた。
怯えるも意志だけは強く。瞳の中には折れそうな心を宿しているが、それでも彼女は信じていた。きっと助けにくる。あの時、エールティアが自分を救ってくれたように、耐え忍んで救出を待てば……。
不思議な事に二人は牢屋の中に入ってくることはなく、ただじっと外から眺めているだけだった。片や色っぽく、出ているところは出ている女性。片や苛立ちを表してはいるが、整った顔立ちと理性の宿る瞳は、冷静さを印象付けているようだった。
「……おいたわしい。このような姿で」
ぽつりと男性から漏れたその一言で女性の方も我慢できなさそうにそわそわと身体を揺らしていた。
「落ち着けアイシカ。そんな姿を見られたら怪しく見えるぞ」
「……落ち着ける訳ないじゃない。こんな……! こんな事……!」
肩を震わせる女性――アイシカは静かに呼吸を整え、心に落ち着きを取り戻そうと躍起になっていた。彼女達はファリスに命令され、リュネーが囚われている場所を探していた。元々ベルンの隠密である二人は鬼気迫る程に彼女の捜索に力を入れていた。彼女達はいずれも王族に忠誠を誓っているのだから当然ではあるが、それ以上に混血だからと命を狙われ、いじめられていたベルンやリュネーを見ていた。末娘のニンシャよりも苛烈だった時代を知っているからこそ、余計にこの扱いが許せなかった。八つ裂きに出来るならば今すぐにでもしてやりたい。そんな気持ちが溢れて止まらない。それはアイシカの隣にいる男性――ガルファも同じであった。
(よくも姫を……この落とし前、必ず付けさせてやる。命を失うだけでは決して済ませない!)
怒りに身を焦がすガルファは、アイシカが冷静を取り戻すまでしばらくの間背中をとんとんと優しく叩くのだった……。
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