496・手紙の中身
とりあえず遺体の片付けは彼らとファリスに任せて、私は再びこの場所に訪れていた。そう、中央都市リティアの城――コクセイ城だ。
こうして何度も出入りできるのは、今ここで必死に働いているお父様のおかげとも言える。既に一度王通った道というわけで執務室への道を何の苦労もなく進む。
扉の目の前。少しずつ緊張してきた私は、軽く息を吐いて、気持ちを落ち着けてからノックをする。
「……失礼します」
静かに扉を開いて部屋の主人であるお父様に向けてお伺いを立てる。そっと中に入ると、忙しそうに書類にサインをしているお父様がいた。相変わらず……というか最初に見た時より書類の量が増えているような気がする。
「エールティアか。どうかしたか?」
私の方にちらりと視線を向けただけですぐに書類の方に戻っていく。その間にも許可・却下の印をついている。私に気を向けながらも作業を続けるなんてよくやるなぁ……と思う。
「実はシルケット王家の手紙を持ってきたのですが……」
その一言に驚いた様子で私の方を改めて見て、『やっぱりなにか起きたか……』みたいな顔をしていた。なんでそんなに納得顔をしているのだろう。
「一応聞いておくが、何故お前がそれを持っている?」
「ええと……端的に言えば猫人族の使者を悪魔族が殺して手紙を奪ったみたいで、それをファリスが取り戻した形……かな」
どういえばいいかわからずにあやふやな感じで言ってしまった為、つい普通の調子になってしまった。
お父様の方も頭を痛そうに抑えて、思考を整理しているみたいだった。
「……なんでそうなったか、というのは敢えて聞かないでおこう。まず、何故悪魔族だとわかった?」
「遺体を少し確認しました。猫人族の使者が武器も抜かずに殺されていたという事に疑問を感じて調べたところ、頭に角を切断した痕が残っていました」
「【
そう。私も【
「もし、魔導の域まで昇華されていたら?」
魔導とは自らのイメージを形にする魔法の上位互換のような存在。魔法でそれだけ強力であれば、魔力とイメージさえしっかりとしているのなら、より強力な【
「ふむ、そこまで出来たからこそこのリティアに潜入していた……か」
「推測の域を出ませんが、可能性はあるでしょう」
既にその悪魔族が死んでしまった以上、真実を知る術はない。
「その通りだな。何にせよ、これ以上は無意味だろう。それよりそのシルケット王家からの手紙を渡してもらおうか」
「はい」
元々そのつもりだったから何の抵抗もなくお父様に使者が持っていたであろう手紙を渡す。
ペーパーナイフで綺麗に切って中身を取り出して確認するお父様は、これもある程度予測していたのだろう。特に何の表情も浮かべていなかった。
「何が書いてあったのですか?」
「救援要請だ。それも成長する鎧騎士が暴れまわっているという情報付きのな」
やっぱりか。これでグロウゴレムが一体以上であることが証明されたと言える。あんまり当たって欲しくない予想だけど、可能性は相当高かったからね。
これでグロウゴレムが他の国に出現する可能性が一気に高まった。今までの状況を振り返ってもティリアースとシルケットのみなんて楽観的な考え方なんて出来る訳もない。
これに対して、お父様は困ったな……と考え込んでいた。無理もないだろう。今グロウゴレムがどれだけ成長しているかわからない。その上、下手な増援は悪手になってしまう。それなりにまとまった戦力か、一つだけ突出している人材が必要になる。
「エールティア、心当たりはあるか?」
「……私が行けば早いのではないでしょうか」
「グロウゴレムが出てくる度にお前が行って戦うのか? 現実的ではない。私達に必要なのは他の者でも倒すことが出来るという確証だ」
言われて確かに……という気持ちになった。グロウゴレムが様々な場所で出現しても、私しか倒せないとなれば一つに対処している間に他の国はどうなる? という話だ。全部を対処しきれない以上、他の人達がなんとか出来るようになるのが一番だ。
「……少し考えてみますが、すぐには出せません」
「わかった。一応明日また聞こう。それまでにある程度考えをまとめておいて欲しい」
「わかりました。では明日ここに来ればいいですか?」
「それで問題ない」
「ではそのように」
心当たりはある。でも、彼女がそれを引き受けてくれるとは限らない。
お父様も私の心境を察してくれたのか今日は待ってくれるみたいだし……一度話してみようかな。
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