451・接敵のエールティア

 部屋で休んでいた敵に【ソーンバインド】と【ナイトメアトーチャー】を堪能させた私は更に奥へと進む。しばらく進んだ先にはそれなりに広い部屋へとたどり着く。多分だけど、集会場所みたいな役割を果たしている部屋なのだろう。ダークエルフ族の拠点というのは大体複数の出口に通路があって、そこから部屋が分かれていて、広い部屋へと辿り着く仕組みになっているみたいだ。

 侵略の為に軍を在留させる軍事拠点の方は砦みたいな作りをしていたからそれだけ例外なのかも。


 身が隠せる場所が多く、雑多な感じがする部屋だ。敵も数人が他愛のない話をしている。一応姿を隠してはみたけれど……わざわざそんな事をする必要があるのか疑問に感じてしまった。

 ここに集まっているので大体全員だろう。見た感じではあまり強くなさそうな人たちばかりだし、一応【サーチホスティリティ】で周囲の状況の確認も取れた。


 正直、複製体の誰かを連れてきているかと思ったけれど……あくまでざっと見た感じだけど誰もいないみたいだ。自分が作った複製体だけど信用出来ないみたいだ。

 隷属の腕輪なんてものも使っている癖に、何がどう気に入らないのやら。お陰で私も楽が出来るからまあ、いいか。


 後はやりかただ。誰も逃さないで気付かれないように仕留める。逃げ出せば追いかければ良いだけだけど…….万が一面倒な事になったら目も当てられない。せっかくここまでやったのだから、物資は無傷なまま手に入れたい。

 私は広範囲の魔導を扱う事を得意としているけれど、下手に使ったらあっという間にこの場所が瓦礫に埋もれてしまうだろう。ならここは――


「【ミラー・アバター】」


 再び鏡像の自分を創り出す。もちろん自分には【プレゼンス・ディリュート】を発動させて気配をギリギリまで薄めてこちらに向かわないように対策を取っておく。

 先程と同じやり方をするのは気に入らないが、この際仕方がない。


「頼んだわよ」


 こくりと頷いた鏡の私は、敵兵に見つからないように動いていて近づいていく。その間に私は魔導をしっかりとイメージして展開させる。


 ――無数の茨。多くの敵を絡めとり傷つける。抜け出そうとすればするほど深く食い込む棘。


 はっきりとイメージをして念入りに魔力を練るが、鏡の私が思うように敵に近づけずにいる。やはり数人の目を掻い潜るのは難しいのだろう。最大限強化したとはいえ、身体能力を上げる魔導を使えば解決する問題でもなく、【プレゼンス・ディリュート】は重ねがけも出来ないし、私と鏡像が自分自身に同じ魔導を発動させた場合、優先順位は本体である私にある。

 三人程度ならまだなんとかなるけれど……部屋で談笑をしている敵は五人を超えている。視線が周囲に散らばっている以上、誰かの目に留まる可能性は高くなるだろう。


 ……仕方がない。ここは私がなんとかしなければならないだろう。

 魔導は今使うことは出来ない。何かないかと周囲を見回すと……適当に捨てられていた木片を見つけた。近くに壊れた椅子があるところから考えると、壊したまま片付けるのを忘れていたのだろう。都合が良いけれど、タイミングを見逃さないようにしないといけない。


 まだこちらに気づいていない敵の隙をついて――今だ!!


 誰も見ていない方向に放り投げられた木片は綺麗な円を描いて、私達がいる場所とは反対側に落ちる。大きな音を立てた方向に視線が集まっていく。


「敵か!?」

「あっちの方で物音がしたぞ!」



 上手い具合に敵は向こうに気を取られている。その瞬間をいくら鏡像とはいえ私が見逃すはずはない。隙を突くように最小限の動きで走っていくその姿は流石だと言えるだろう。

 しかし、近づきすぎるとやはり気付く者も現れる。


「ち……!」

「【ソーンバインド】」


 格闘戦の距離内に入り込んだ鏡像の私の存在を訴えようとしたその口は発せられることはなかった。

 こちらの方を向いた男性と他の人の視線から外れている男性

 を茨で縛り上げ、何人かを無力化する。


「何……!?」


 ようやく異変に気付いたようだけど、もう遅い。既に鏡像の私は間合いに入って拳を振り上げている。


「【フィジカルブースト】!」

「【トキシックスピア】!」


 鏡像の私が身体能力を上げて殴り、そのまま二人を気絶させると同時に毒性を弱めた毒の槍を残った一人を穿つ。

 全員合わせて六人程度いたようだ。その全員を無力化した私は、周囲に敵がいない事を確認する。


 あっという間に片付いた彼らは全員息がある。【トキシックスピア】も死に至らしめるまでの毒ではなかったしね。

 一応【サーチホスティリティ】で見つけた敵兵は多分これで全部だろう。元々そんなに大きな拠点じゃなかったみたいだし、むしろリシュファス領に存在する拠点への中継が良いところだろう。


 ともかく、これでこの拠点も攻略した。捕らえた敵は一か所に集めて魔導で造った檻にでも閉じ込めておこう。

 ……まあ、【コキュートスプリズン】か【カルケルフランマ】の二つしかないから、どっちにしても長くは閉じ込めておけないだろうけどね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る