450・潜入、ティリアースの拠点
上手く洞窟の中に潜入出来た私は、静かに息を殺しながら歩みを進める。いくら私でもこんな建物の中で姿を消せる魔導は存在しない。【ナイトハイド】のように夜限定ならあるんだけど、今は昼。流石に太陽が出ているところで隠れるイメージは中々出来なかった。まあ、正直なところそれがハンデになるかと言えばそうはならない。戦い方なんていくらでもあるからだ。
洞窟の中で等間隔に設置されている魔導具が周囲を明るく照らしていて、暗視の魔導が必要ない程度には見えていた。
幾つもの道が分かれていて、部屋に入ると食糧庫だったり、武器庫だったり……様々な物資を詰めている部屋が多い。正に補給拠点と呼ぶに相応しい内容だ。
特に敵に出会わずに進んでいくと、奥の方から話し声が聞こえてきた。
「今日の分のチェックは終わったのか?」
「一応な。それにしても、あの子爵様はよく提供してくれるよな」
「子爵様なりに必死なんだろ。ダークエルフ族の復権に貢献する代わりにそれなりの地位を与えるってベルフェーリ様が約束してくれたからな」
「ベルフェーリ様が劣等種如きの約束を守ると思うのかね」
「思ってるからこうして色々送られてくるんだろ。ま、鬱陶しい事を言い出したら『隷属の腕輪』を付けてやればいいし問題ねぇだろ」
「違いないな」
はっはっは! と私に近づきながら大きな声で話している二人の会話から、子爵がこの拠点に物資を提供している事がわかった。どこかに数量が記載されている書類が存在するはずだけど……これはまあ、あまり期待しないでおいたほうがいい。これが私なら、確認終了後に即燃やさせるだろうし、今まで手に入れた本や地図などは運が良かったと言えるだろう。
他の部屋へと続く分かれ道の一つに入り込んで、彼らが通り過ぎていくのを待って――その隙を突く。
「【ソーンバインド】」
他の敵が存在しない事を確認した私は、片方を茨で縛って床に転がしてあげる。
「て、敵か!?」
「遅い」
驚いているもう一人には走り詰め寄って、胸倉を掴んで引き寄せる。唐突な出来事に対応できない未熟さを呪うといい。こちらに引き寄せられたダークエルフ族の男性の顔面を思いっきり殴り抜いて床に叩きつけて束縛された男と一緒に地面に横たえる。多少の物音はしたけれど、これくらいで周囲に変化が起こるようなことはない。
とりあえず【ソーンバインド】でもう一人も縛って、二人とも適当な部屋に放り込んでおいた。気付かれたらそれで終わりだけど、一応物陰に隠しているから見つけにくいだろう。
さて、【サーチホスティリティ】で調べた限りまだ敵がいると思うのだけれど……恐らくこの拠点の奥の方にいるのだろう。
いつ敵が現れるかわからない。常に行動に移せるように気を張りながら様々な部屋を探索していると、寝室に辿り着いた。複数のベッドがあって、三つくらい誰かが寝ているようだ。
見た感じダークエルフ族みたいだ。どうやら交代で休んでいるみたいだ。あまり目立った事は出来ないけれど、こちらとしては都合がいい。彼らの口はそれなりに固いから、普段なら何の情報も聞きだせないだろう。だけど、眠っているなら話は別だ。
「【ナイトメアトーチャー】」
まずは近くにいた男性に悪夢を見せる魔導を発動させる。その悪夢の中で尋問を行い、現実でした質問に無理やり答えさせるという優れた魔導だ。この世界に転生してからも何度かお世話になった。
「さて……まずは何を聞こうかしらね」
とりあえず、この拠点のことからダークエルフ族の事に関して色々と聞くことにした。時折うめき声を下ているけれど、他の寝ている人が起きる様子はない。
まあ、他の二人にも【ナイトメアトーチャー】を仕掛けているから当然なんだけど。
一度悪夢に囚われてしまったら普通に起きる事は困難を極める。なにせ魔導でコントロールしている訳だしね。
一人に一回ずつ聞くより、全員に聞いた方が早いというわけだ。それぞえれに違った事を聞けて結構有意義な時間を過ごすことが出来た。情報を整理する。どうやらここは他の補給拠点への中継点らしく、ここから鳥車を使って別の場所に物資を移動させるという訳だ。今はその準備のせいでここに人が集まっているのだとか。出口は三つ程あって、その内の一つに複数の鳥車を停めているのだとか。
なるほど。だから【サーチホスティリティ】で複数の点が存在したという訳だ。私が使った出入り口とは違う場所で、ちょうど進んでいる方向にあるみたいだ。
ダークエルフ族は他にも色んな国に入り込んで暗躍しているみたいだけど……大抵がエルフ族として潜り込んでいるようで、ティリアースには商人として
恐らくイシェルタ伯母様とのやりとりをしていたはずだ。エスリーア公爵領に拠点があったのもそういう理由だろう。
大体知っていそうな情報は手に入れたし、後はベッドの中でゆっくりと眠ってもらおう。楽しい悪夢と茨で縛られながら……ね。
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