413・エールティア派、集結

 手紙が届いてから三日ほどで他の地方に行っていた二組が帰ってきた。宿の大きな部屋を貸し切って全員で久しぶりの対面を果たした。アルフ達はそれなりに成果を得られた顔をしていたけれど、雪雨ゆきさめはかなり疲れた顔をしていた。

 なんというか、一年ほどふけたみたいだ。


雪雨ゆきさめ、お疲れ様」

「……ああ」


 あんまり他のメンバーと違っていたから思わず労いの言葉が出ていた。


「エールティア」

「な、なに?」

「自分の部下の躾ぐらいしっかりしとけ。それと……レアディ達と雪風はもう一緒に組ませるな」

「……ええ。わかったわ」


 あまりに真に迫った表情をしてたからとりあえず頷いておいた。

 それほど酷かったのだろう。真面目な雪風ならレアディ達を言い聞かせる事が出来ると思ったのだけれど……それは早とちりだったみたいだ。


「なんだか少し変わった?」

「……色々ありましたから」


 レイアが雪風の纏っている雰囲気が違う事に気づいて首を傾げていたけれど、雪風は曖昧に笑みを浮かべて頷くだけだった。あまり話したくないのか、微妙に言葉を濁している。


 これは後で詳しく聞いた方が良いだろう。二人っきりになれた時にでもゆっくりと話を聞いてあげよう。


「エールティア姫、私に何もないのは少し寂しいです」

「あ、ええ。ごめんなさい。アルフもお疲れ様」


 少しだけ寂しそうな顔をしているアルフにも笑顔で労うと嬉しそう微笑みを返してくれた。そのやりとりにレアディ達が『やれやれ』といった様子なのが気になったけど、これも後回しでいいだろう。


 全員がそれぞれ挨拶や言葉を交わした頃合いを見計らって、一度大きく手を叩いた。


「はい。そろそろ本題に入りましょう。みんながそれぞれの目的を果たしたと思うけれど……とりあえず手に入れた情報の交換をしましょう。話はそれから」


 私の言葉に雪風が暗い顔をしていたけれど、多分先程の事と関係があるのだろう。

 ……どんな話が飛び出してくるか、少し身構えた方が良いかもしれない。


 ――


 何度か休みを入れて互いが手に入れた情報を話し合い、整理する。

 アルフの方は私達とさほど変わらない情報を入手していたようで、粗探しをしてより精度を高める事に成功した。

 同じ情報を手に入れた分、信頼度が上がるし、違っていた分は彼らの戯言と捉えておけばいい。


 それ以上に問題なのは――雪風が手に入れた情報だろう。

 まさかダークエルフ族の軍事拠点の位置を掴んでくるなんて思ってもみなかった。

 ティリアースの近くにあるとは思っていたけれど、ガンドルグにあるなんてね。


 詳細の位置まで聞いてきたのも驚きだったけれど、それ以上に雪風が一度死んだ事に衝撃を受けた。

 思わず駆け寄って身体の状態を触って確かめたくらいだ。彼女はくすぐったがっていたけれど、特に何ともなくて良かった。

 まさかそんな無茶をする子だとは思っていなかった。最初は信じられなかったくらいだ。雪雨ゆきさめがこの状況でくだらない嘘を言うとは思わなかったから信じられたけれど……。


「雪風。なんでそんな無茶をしたの?」

「え、ええっと……その、エールティア様に喜んでもらいたくて……」


 自分でも不味い事をしたとわかっているのだろう。もじもじと落ち着かない態度をとっていた。


 ……全く、私の為にというなら、その命を大事にして欲しいものだ。この子の命と引き換えにするほど、大切なものなんてない。


「雪風、今回は貴女の魔道具に救われたけれど……あまり無茶はしないでちょうだい。その情報は他でも手に入れられてても、貴女の代わりはいないのだから」

「エールティア様……」


 感極まった表情で尊敬の眼差しを向けてくる雪風。私の思いは伝わったみたいだけど……彼女の反応から見ると、伝わり過ぎているような気がする。

 それと何故かレイアとジュールも同じような視線を向けてくるなんてね。


「……こほん、ええと、雪雨がそこまでしてくれたのは純粋に嬉しいわ。手に入れた情報はかなり有益なものになったしね」


 あまりに熱心な視線に耐えきれなくなった私は、軽く咳払いをして場を濁す事にした。

 雪風の情報のおかげで先へと進むことが出来るけれど、一つ問題があった。

 ガンドルグへの書状をしたためて、具体的にどう攻めるか作戦を練る必要がある。


 その上で問題というのは、こちらの動きを察知して拠点の中を空っぽにされないか……という点だった。

 そう簡単に全てを隠せる訳じゃない事は知っているけれど、少なくとも拠点の位置を隠蔽することは出来るだろう。そうなったらまた面倒な事になる。

 私の陣営にいる複製体の子は自分がいた拠点ぐらいしか知らないし、軍事的な場所は一切教えられていない。

 ここで手掛かりを見失えば、今度はずっと後手に回ることが目に見えている。


 せっかく雪風が命を掛けて掴んだくれた好機。これを必ずものにして先手を取り続けてみせる。

 その為には……とりあえず今すぐお父様達に手紙を出して、ガンドルグの王に話を付けておこう。

 今後の私の立場も考えると、流石に断り一つなく暴れてしまうなんて出来ないしね。

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