414・動き出した父(ラディンside)

 エールティアが仲間達と合流して数日後。ティリアースに存在する港町――アルファスではエールティアの父親であるラディンが様々な書類や報告書とにらめっこをしていた。

 ダークエルフ族が各国で一斉に蜂起したことによる対応に追われていた。


 ティリアースの奥地に存在するアルファスはダークエルフ族の侵略を受けてはいないが、国としてみれば少なからず被害が出ていた。公爵家としての務めを果たすべく次々と運ばれてくる書類に目を通していたラディンは、しばらくして深いため息を吐いていた。


「全く……この期に及んでも尚一つにまとまる事が出来ないとはな……」


 ラディンを悩ませているのは宙に浮いたエスリーア派の存在だった。

 率先して発言し、次期女王候補として娘を育てていたイシェルタの喪失。決闘に敗北し、次期女王の権利を永久剥奪されたアルティーナ。そして、元々権力争い消極的なエスリーア公爵。トップに君臨していた人物が消えた結果、中途半端に残ったエスリーア派は、エールティアの女王即位を邪魔するための集団へと変貌を遂げていた。

 奥地に存在するリシュファス領は、食材や一部の魔石、魔導具を貿易に頼っているところもあり……その結果、値段を吊り上げてくる商人が増えてきたのだ。

 おまけにアルファス側から輸出している魚などの商品は、エスリーア派と一部の中立を謳っていた派閥の貴族達の領土では重い税金を課せられていた。


 それに対する資金運用の方法や、ラントルオを用いた陸路による運搬よりもワイバーン便を積極的に利用して、リシュファス領から遠く離れた領地への荷を運んでもらう空路に主軸を置いていた。

 普段であればこの程度の事は気にもすらしなかっただろう。国内の他の貴族達はラントルオを使った陸路の方が発達しているのに対し、リシュファス領は最もワイバーン便による空路が発達しているからだ。エスリーア派の貴族達に囲まれた結果、必然的にそうなった。周囲から日常のように行われていた嫌がらせの結果、アルファスではエスリーア派の場所を避けて貿易を行える翼を求めた。だからこそワイバーン便が発達しており、今まではあまり影響がなかったのだ。


 それが一変したのは『空賊』の存在。彼らはリシュファス領から飛び立つワイバーンを狙って積荷を襲う盗賊で、ダークエルフ族が作戦を発動させる前から問題視されていた。数匹のワイバーンで編隊を組んで襲うその様は訓練されており明らかに盗賊のそれではないのだが、確固たる証拠がないため頭を悩ませているのだ。

 今までの事を考えたらどう考えてもエスリーア派の貴族の仕業なのだが、気軽に「これお前がやったよね?」なんて言う訳にもいかず、日ごろ増えている被害に頭を抱える日々が続いていた。


 部隊の編成や装備の見直しを検討している最中――ノックの音が聞こえてきた。


「入れ」

「失礼します」


 中に入ってきたのはメイドの一人で、手紙を持っていた。


「御屋形様、エールティア様からお手紙が届きました」

「ありがとう」


 頭を下げて音も立てずに去っていくメイドを尻目にエールティアから届いた手紙に差し込む様に入っていた紙を見てラディンは笑みを零す。

 どうやら彼が待ち望んでいたものの一つではあるようだが、それよりも先にエールティアから届いた手紙を開いて中に目を通す。

 ありきたりな文から始まり、そこから現在の状況。これからガンドルグに向かうことなどが詳しく書かれていた。


(あの子もあの子なりに頑張っている……か。ならば、私もより頑張らなければな。あの子が帰ってくる場所。それを土足で踏みつぶさせはしない)


 より一層気合を入れたラディンは大切に手紙をしまい――次に一緒に届けられた紙に目を落とした。

 そこに書かれているのは諜報部隊からの報告で、空賊と呼ばれている者達の拠点と今まで接触した人物及び彼らの雇い主について事細かな内容だった。

 少なくとも一長一短では手に入らない情報ばかりで、ラディンは自分の頬が緩んでいくのがわかった。


(流石フィンナ。よくこれだけの事を掴んだ。後は機を見計らって一網打尽にしてくれる。今まで私達の民を苦しめた罪。しっかりと償ってもらうとしよう)


 そうと決めたラディンがまずしたのはエールティアへ返事を書くことだった。こちらは心配しなくていい。お前は自分のやりたいようにやりなさい。と。

 今ここが置かれている現状については一切記載しなかった。余計な心配は判断を鈍らせる。ラディンはそれを一番よく知っていたからだ。


「誰かいるか!」


 手紙を書き終えたラディンの大声に呼ばれ、メイドの一人が姿を現す。丁寧なカーテシーが彼女の礼儀の良さを伺わせる。


「この手紙を送れ。エールティアは恐らくガンドルグにいるだろう。余分に金を渡して見つかるまであちらでゆっくりと過ごすように伝えてくれ」

「かしこまりました」


 恭しく手紙を手に取るメイドの退出を見届け、ラディンは改めて書類に向き合う。

 領土を離れる訳にはいかない彼が出来る事。諜報部隊を用いた支援と防衛・討伐隊の編成を行い、速やかに領土・領空の安全を確保し、娘の帰る場所を守り抜くことだった。

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