393・最強の一角(レイアside)
「【アネイブル・トゥタッチ】」
呼び出した【人造命冠・パイソウィーク】によって一気に攻勢に出たレイアをどこか愛おしげに見ていたフレルアの魔導によって、再びそれは阻まれることになる。
フレルアの身体に触れた魔力の球体は、まるで初めからそこにはなかったかのように消えてしまう。触れた部分がそこだけ消えていき、球体自体は形を崩して更に襲い掛かるも、それすらフレルアの身体に触れると消えてしまう。
「……なるほど。【ガイアプレス】の攻撃を防げたのはこういう事だったのか」
今まで魔導を防げていた理由がわかったローランは、改めてフレルアの恐ろしさを実感する。
「そんな……!」
「ふははっ、さあ見せてもらおうか。貴様の力を」
突進してくるフレルアに何も成す術の無いレイア。魔導は【アネイブル・トゥタッチ】によって無力化され、近接戦では一歩も二歩も劣る。完全に攻撃する手段を奪われたに等しい。
残る手段は【化身解放】による竜神人族化なのだが……それもフレルアが同じ魔導を使えれば意味をもたない。
身体能力が同じように高くなるのであれば、基礎能力の高い方が優勢になる事は間違いなく、力でも技術でも劣るレイアにとって【化身解放】は切り札の一つではなく、それを引き金にフレルアも【化身解放】してくるかもしれないというギャンブル性の非常に強い持ち札でしかなかった。
ハイリスクローリターンの戦法を取れるはずもなく、彼の【アネイブル・トゥタッチ】がどれほどの魔導を無効化できるかわからない。完全に手詰まりになったレイアは、諦めて戦うのをやめようとしたその瞬間――
「レイア! 最後まで諦めるな!」
「……何の為にわたしが貴女に譲ったと思ってるの!? 戦うなら最後まで全力でやりなさいよ! 途中で投げ出すくらいなら、最初から引っ込んでいなさい!!」
アルフの応援。そしてファリスの叱責するような激励。その二つを受けて、レイアの動かなかった身体に火が付いた。
「【人造命輪・ラッドリッド】!」
とっさに発動させたのはもう一つの人造命具。赤と黒の二対の指輪が両手の人差し指に収まり、静かに光を湛えていた。
「ほう……冠の次は指輪か。武器や防具などの見た目で性能の予想がつく人造命具とは大分変っているな。ふっ、いいぞ」
「……余裕でいられるのもそれまでよ」
レイアの瞳に再び闘志が宿り、力が溢れていく。
(二人ともありがとう。それにローランも。何も言わないで信じてくれてありがとう。だから私も……最後までやってみる)
心の内で感謝しながら、レイアは次の行動に思考を向ける。魔力による攻撃はフレルアの【アネイブル・トゥタッチ】で全て掻き消されてしまう。だが、それも全てではないはずだ。魔導というのは確かに圧倒的な力を持っている。だけど必ずしも絶対の存在ではない。攻略法は必ずあるはずだ――
――【パイソウィーク】によって出現している魔力の球体でフレルアを牽制しながら自らの身体を強化する魔導を掛ける。そうすることで生まれる僅かな時間の中で必死に思考を巡らせ、出した結論。それは大規模な魔導によるごり押し。戦法とはとても呼べないものだった。
「【ガイアプレス】【フレアスコール】――」
左手に土。右手に炎。それらを両手で合わせ、一つに混ぜ合わせる。
「【メテオブレイズ】!!」
解き放たれた魔力の隕石は一斉にフレルアに向かって発動される。
「……【アネイブル・トゥタッチ】」
隕石の嵐が迫りくる中、フレルアは魔導を発動したと同時に走る。魔導の嵐を潜り抜け、標的を仕留める――その為だけの動きだった。
――だからこそ、そこに弱点がある。
「……何?」
まず最初に驚いたのは隕石が掠めた時の事だった。フレルアの【アネイブル・トゥタッチ】は魔導を消すことが出来る魔導であり、発動中は魔導がぶつかっても消されてしまう。だからこそ、どんな衝撃でも殺されてしまい、フレルアにそれが伝わる事はない。
(おかしい。魔導であるならば、我が魔導で防げぬ道理はない。まさか……我が練った魔力よりも遥かに多く使用しているという事か……!!)
大急ぎで距離をとったフレルアのその目は驚愕で染まっていた。【アネイブル・トゥタッチ】は込められた魔力よりも少ない魔力で練られた魔導を掻き消す。レイアの【パイソウィーク】の天敵と言っても問題ない魔導だった。
それを防げず、掠るだけで留めてしまった。傍からみたら些細な事でも、フレルアにとっては動きが止まってしまう程だった。これはつまり――【メテオブレイズ】が【アネイブル・トゥタッチ】よりも濃密に作り込まれていたという事に他ならなかった。
(……なるほど。面白い。確かに……面白いぞ)
一瞬驚きにその身を強張らせたフレルアだったが、徐々にそれも薄れ、残ったのは戦いを喜ぶ自身のみ。
つまらない戦いになりそうだと思っていた心に火が入り、完全に戦いの為に思考を巡らせる。
レイアが彼にとって【アネイブル・トゥタッチ】で処理する事が出来ない相手。自らを傷つけて倒しうる――真に倒す価値のある相手へと上がってしまった瞬間だった――。
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