392・先祖の複製(レイアside)

 最初はお馴染みの近接戦が展開されていく。

 右、左、斜め右にアッパー。それすらかわされ、そのままの勢いを回転に利用しつつ裏拳。知りある限りの技術と動きを行使して戦うレイアに対し、フレルアは超反応と言っても差し支えない動きで避け、拳を解き放つ。


「つっ……!」


 頰を掠め、僅かに痛みが走る。それを更なる闘志に変換してレイアの動きはキレを増していく。


「ふむ、面白い。戦いながら学習しているようだな。だが……その速度では我に追いつけぬぞ」


 感心しながらもその成長を軽く笑い、より強い攻撃を繰り広げていくフレルアの言葉は、レイアの心に刺さる。

 いくら学びながら強くなっても、その成長速度には限界がある。


 楽しげに戦うフレルアは加減しながら相手をしている。ファリスと戦っていた時よりも鋭く、力強い一撃を次々と繰り出し、彼女はまだ追って避けるのがやっとだったのだ。

 これではいずれか力尽き、あっという間に拳の嵐にその身を晒すことになる。一撃一撃が必殺の威力を誇るそれをまともに浴びれば、数発も耐えきれずに黄泉幽世よみかくりよへと旅立ってしまう事は間違いないだろう。


「魔導は使わぬのか?」

「なら……お望み通り……!」


 近接戦は圧倒的にレイアの不利。そんな事は最初からわかっていた事だ。だからこそ、彼女の中の闘志は一層の燃え上がりを見せる。


「【ガイアプレス】!」


 距離を取ったレイアの放った魔導が大きな土塊を作り、フレルアの頭上から落下させる。避けるには大きく動く必要があり、それは新たな隙を生むことに繋がる。


 しかし――


「ほう、中々展開が早い。イメージがよく練られている証拠。なるほど。魔導使い寄りか」


 速やかに作られた【ガイアプレス】に感心するフレルアは避ける選択を取らなかった。迫り来る大きな土塊に真っ向から挑むように立ち止まるその姿に、観客の三人は驚きを隠さずにいた。


「相殺するつもりなのか?」


 アルフの呟きに応えるかのように佇むその姿は悠然としていた。


「【アネイブル・トゥタッチ】」


 腕を組み、威風堂々と佇むフレルア。彼は確かに魔導を発動した……が、特に何も出ない。一切変化無く、【ガイアプレス】によって押し潰されてしまった。


 土塊が床に接触し、ぼろぼろと崩れて瓦礫を作り上げる。


 あまりな光景に発動したレイアの方が呆然としてしまう。それは観客の三人にも伝染し、到底信じられない光景が広がった。


「え? え? お、おわり……?」

「……いや、結界は解除されていない。まだ戦いは終わっていない」


 あっけなさに目をパチパチさせるレイアの呟きをローランが否定した。

 決闘ではないにせよ、一度死なない限りこの結界は決して解除される事はない。つまりフレルアは土塊に埋もれてしまったという事になる。


「……どうし――」


 戸惑いながら声をあげたレイアの目の前でそれは起こった。

 まるで土が道を作るかのように割れていき、フレルアが何事もなく歩いてくる。

 確かに【ガイアプレス】は直撃した筈だ。そんな考えがレイアの頭の中に湧き上がる。


「……なんで?」

「さてな。それを考えるのも貴様の学ぶことだ」


 悠然とした態度で腕組を解いたフレルアは、好戦的な笑みを浮かべてレイアに襲い掛かる。

 鋭く伸びた爪で振り下ろされた一撃は、レイアの魔力や服を容易く切り裂いて、血に塗れた肩を露出させる。


「ぐっ……! くぅっ……!!」

「どうした? たかだかこれしきで呆けていては勝負にならぬぞ?」


 笑みを深め、たてつづけに繰り出される爪撃。その一撃は並の剣の斬撃よりも鋭く、速い。レイアは翻弄され、中々魔導を発動する隙を与えてもらえずに回避を強いられてしまう。


「どうした? その程度か?」

「【フレアレイ】!」


 辛うじて放たれた炎の光線は、フレルアになんなく回避され、上手く潜り込まれてしまう。

 更に近接戦の距離を保たれつつ、レイアが魔導を発動する際に距離を詰められ、思うままに攻撃する事が出来ないもどかしさが続いていく。


(どうする? どうすれば……)


 的確に弱点を突いてくるフレルアの動きに翻弄されている上、勝利への道筋を見出すことも出来ずに苦戦を強いられているレイア。このままでは確実に手痛い形での敗北を迎えるのは必至。もはやどうする事も出来ない状況に追いやられた彼女に残された方法はただ一つだった。


「……【人造命冠・パイソウィーク】!!」


 切り札の一つ。レイアの頭上に透き通る程に輝く王冠が出現し、フレルアの興味は一気にそちらの方に向いた。


「……ほう、中々美しい物を持っているではないか」


 ここでフレルアも人造命具を出してくることを期待していたレイアだったが、そう上手く話は進まない。

 彼はレイアの人造命具を物珍しげに見るだけで特に行動を起こすことはなかった。

 それは『だからどうした?』と言わんばかりの表情で仁王立ちするだけだった。


 その様は風格すら感じられる程で、レイアの威圧するには十分だった。


「……征け!」


 パイソウィークによって生成された複数の魔力の球体が一斉にフレルアに襲いかかる。

 その様子を楽しげに見ていたフレルアは、未だ実力の全てを見せてはいなかった。

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