394・力の証明(レイアside)

 二つの人造命具でなんとか盛り返す事に成功したレイアだったが、相変わらず劣勢を強いられていた。

 まず、彼女は切り札を全て使ってしまったのに対して、フレルアはまだ魔導を一つ使っただけだ。


 身体能力と防御系の魔導一つ。それだけでここまで戦うのだから、レイアを含めた三人は彼の強さに末恐ろしさを感じてしまう。

 唯一恐れを感じていないのはファリスで、彼女はようやくフレルアに強い関心を持ったくらいだった。


「【シャイニーレイン】【プリシューティム】」


 再び両手に魔法を顕現させ、再び混ぜ合わせる。新しく作られていく力が輝いて、レイアの思う形を作っていく。


「【ディフューズプリズン】!!」


 フレルアを中心として広範囲に薄緑色の半透明な壁が出現して、天井を作り牢獄のように仕上がる。塞がると同時に牢獄の中に放たれた光が反射し、増えていく。あらゆる方向に乱れ、複雑な軌道を描く光達は音と共に激しさを増していく。


 ほとんどが光に覆い尽くされ、フレルアの身体が完全に隠れて消えてしまう。それでもレイアの攻撃は一切止む事はなかった。

 ここで止まってしまえば、間違いなく息を吹き返す――そんな風に考えているのではないかと思うほどの鬼気迫る表情だった。


 やがて光も透明な牢獄も消えて、フレルアがいた周囲は激しい土煙に満ちていた。

 あそこまでの苛烈な攻撃を全て避ける事が出来たとは思えず、今までのフレルアの魔導を押し切るだけの強さがあったと誰もが確信していた。だが――


 ――ビュオッ!


 風切り音と共に土煙を切り裂き現れたのはほとんど無傷と言っていいフレルアだった。

 満面の笑みを浮かべ、嬉々としてレイアに突撃していく彼の様相は、激しく燃え盛る炎のようで、見る者を圧倒していく。

 爛々と目を光らせ、滾る闘志を爆発させるように距離を詰めるフレルアに対し、レイアははっきり死の予感を覚える。

 膝が震えそうになり、心が砕けそうになる。それでも彼女は攻める事をやめようとしなかった。


「【ラピッドガントルネ】……【クイック】――」


 かつて猫人族の王が得意としていた【ガン】系の魔法。レイアは様々な種族の持つ魔法を可能な限り覚えてきた。全ては【ラッドリッド】と【融合魔法フュージョンマジック】を最大限活かす為に。


「【フュジアトランダム】!」


 レイアの周囲に次々と球体が出現していき、それが最後の一つが揃ったの同時に一斉射撃。

 それによって無数のレーザーが複雑な軌道を描いてフレルアに襲い掛かる。


「クックック……」


 どこから出しているのか? と思うほどの圧倒的な数量を前に、フレルアは喜びに満ちていた。

 彼にとって勝利は当然のものであり、戦えば一切傷をつける物がいなかった。


 それが目の前の少女はどうだ? 怯えながらも逃げずに立ち向かい、その魔法の種類の多さとそれを活かす為の工夫で戦う少女は、フレルアを傷つけるまでの域に達していた。

 強者という者は常に乾くものだ。それは圧倒的である程顕著になる。フレルアも例外ではなく……彼は今、それを潤す術を得ようとしていた。


「面白い! 実に面白いぞ! もっと我を楽しませよ。我が喰らうに相応しい存在になるといい!」


 距離を詰めて爪を振り下ろす。たったそれだけの事しかしていないフレルアだったが、その速度は少しずつ速くなっていた。

 レイアも対応するのが難しく、今では少しずつ切り刻まれる事の方が多い。だが、彼女も強力な魔法で応戦しており、決してやられるだけではなかった。


「【ラピッドガンコルド】、【フリーズレイン】――」


 追い詰められつつも反撃に転じるレイアの瞳からは闘志が伝わり、それをフレルアは感じ、笑みを強く深める。


「【アイスダストガン】!」


 微細な氷の弾丸が無数に飛び散り、フレルアに襲い掛かる。

 しかし……レイアは忘れていた。フレルアの行動範囲を狭め、自らの優位性を保つ事に重点を置いてしまったせいで判断を誤ってしまったのだ。


「【アネイブル・トゥタッチ】!」


 近距離まで迫ってきたフレルアは、魔力を阻む魔導を発動させ、【アイスダストガン】で生み出された微細な氷の弾丸などものとものせずに襲い掛かってきた。


「くっ……!」

「遅い!」


 とっさの判断が間に合わず、鋭く唸るフレルアの右手にレイアは深々と貫かれてしまった。


「がぁッ……! ぐっ……」


 なんとか息を整え、反撃に出ようとするレイアだったが……その時にはすでに遅し。

 腕を引き抜いたフレルアを悔し気に見つめ、結界が発動する音がした。


 貫かれた胸の痛みは完全になくなっており、傷も一切残っていなかった。

 だが、レイアの心はどこかぽっかりと穴が開いたままだった。


「私の……負け……」


 呆然と呟くレイアの隣。久しぶりに満足の出来る戦いをしたフレルアは、どことなく満足げに息を吐きだしていた。


「久しぶりに楽しい戦いだったぞ」

「そ、そう……」

「……レイア。お前の感じている事は大体察しがつく。だからこそ、敢えて言わせてもらおう。強くなれ。そして、次は我に打ち勝って見せよ」


 にやりと笑みを浮かべ、レイアを激励するフレルア。その調子に戸惑わされながら、レイアの心は幾分か和らいだ。結果は伴わなかったが、彼女にとって得られたものが多い一戦となった。


 ――こうして二人の戦いは幕を降ろしたのだった。

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