375・再会した者達

 大時計で丁度半刻が過ぎた頃。私は複製体のみんなを集めて王都の入り口に向かうと、既に雪風がレイア達を連れて待っていた。

 大体私が想像していた通りのメンバーなんだけど……何故かアルフとカイゼルも一緒にいた。


「久しぶり、二人とも」

「魔王祭で戦って以来だな」

「僕は言葉を交わすのは去年振りかな」


 カイゼルは無愛想な感じだけど、アルフは穏やかそうな笑みを浮かべていた。


「おい、俺には何にもなしかよ」

「ふふっ、そんな事気にするようなタチじゃないでしょう。久しぶり雪雨ゆきさめ


 にやりと笑う姿がレアディと被る。多分、彼と気が合うんじゃないかな。

 最後にレイアに視線を向けると……何故か顔を赤らめて目を背けられてしまった。


「レイア?」

「ひゃ、ひゃい!」


 上ずった声で返事をした彼女は、前に会った時とはまた随分と印象が違って見えた。

 なんというか……昔のレイアよりも更に臆病にした感じ。それが今の彼女の印象だ。


「なんで顔を背けるの? 久しぶりに会ったんだから、ちゃんと見せて」

「えっと……は、はいぃぃ」


 情けない声を上げてこっちを向いてくれたけど、みるみる内に顔が赤くなって結局逸らしてしまった。

 その様子に何故か周囲からひそひそ声が聞こえてくるけれど……私が何かをしたのだろうか?


「エールティア殿下。そうレイアを問い詰めないで欲しい。貴女ももう少し、自分の魅力に気付いた方がいいですよ」


 くすくすと笑ったアルフに助け舟を出されたように感謝している視線を向けるレイア。いつの間に二人ともそんなに仲良くなったんだろう?

 前まではファリスとジュールなんて比較にならない程に仲が悪かったと思うのだけれど……まるで裏返ったかのように正反対なくらいに仲良くなっている。


「二人ともそんなに仲良かったっけ?」


 思わず素っ頓狂な声を上げて疑問を口にしてしまった私に、アルフは「当然の疑問だろうね」とでも言いたげに軽く微笑んでいた。


「ふふっ、僕が彼女を嫌っていたのは、貴女に相応しくないと思っていたからです。しかし、その誤解も解けました。僕と同じか……それ以上の頂に彼女は立った。並大抵の才能、努力では補いきれない程です」


 まるで自分の半身を慈しんでいるかのような優しさすら感じる。ここまで変わると、むしろ少し気持ち悪い。しかもレイアも当然のようにそれを受け止めている。傍から見たら仲の良い兄妹のように見えなくもない。


 ……これは慣れるのに時間が掛かりそうだ。こんな事は流石に私にも想定外過ぎる。


「……それじゃあ、早速チーム分けをしましょうか」


 これ以上彼女達と会話するのはやめておこう。このまま旅立つ前に精神が疲れてしまう。手早く分けてさっさと行こう。


「ティアちゃん、今逃げたね」

「ああ、逃げた」

「聖黒の女王にも理解出来へんもんがあるんやなぁ」

「ははっ、色恋とかとは縁遠いから尚更だろう。強い女ってのは大概こんなもんだ」

「さっすがレアディはん。経験豊富なお人の言う事は違うわぁ」


 みんなして色々と言ってくれる。だけどそこらへんは全て無視だ。一々相手にしていてはキリがない。


「えー……こほん。今回は複製体のみんなの拠点を探索しようと思うんだけど……数が多いから手分けしたいと思ってるの」

「それは良いけどよ。チーム分けはどうするんだ? 偏って俺達だけってなるのは変だろう?」


 レアディのいう事ももっともだ。複製体の子達だけで組んだチームにあまり意味はない。外部の人が混じっていた方が何かに気付きやすいはずだ。


「まず七日ぐらいを目安として……私、ジュール。そしてアルフ、レイア。最後に雪風、雪雨ゆきさめ、カイゼルに分かれようと思う」

「うん、良いと思う。黒竜人族同士。鬼人族同士に魔人族の混成。それと聖黒族と契約スライム。互いにある程度戦い方を知っている者達だから、連携も取りやすいだろう」


 そう。雪風と雪雨ゆきさめは知らないけれど、そう仲が悪いとも思えない。私もいつまでも雪風とばかりいっしょにいる訳にはいかないしね。かといってアルフとレイアを引きはがすのは……面倒事になりそうだから関わり合いになりたくなかった。

 カイゼルは一番悩んだけれど、鬼人族の二人が近距離なら、遠距離で戦える人も必要だろう。彼ならある程度は連携してくれ……たらいいなぁ。


「私のチームにはアイビグとスゥ。アルフのチームにはファリスとローラン。最後に雪雨ゆきさめのチームにはレアディとアロズに分かれてもらおうと思うんだけど――」

「えー、わたし、ティアちゃんと一緒がいい!!」


 わかってはいたけれど、やっぱりファリスが文句を言ってきたか。


「ファリス。貴女に必要なのは協調性。少しは他の人と一緒に行動する事に慣れなさい」

「……それをお前が言うのか?」

「失礼ながら、エールティア殿下も大概かと」


 あーあーあー。聞こえなーい。

 心の中で大声を上げながら耳を塞いで、文句は一切耳に入らないようにする。


「とりあえず、それでいいわね?」


 強い視線を向けると、しばらく睨み合って……やがて諦めたように下を向いた。


「……帰ったら、一緒にデートしてくれる?」

「それくらいなら別にいいわよ」

「本当!?」


 さっきまでの落ち込んだ様子から一転してキラキラした様子でばっと上を向いて私に笑顔を見せてくれた。

 これくらいで宥められるなら安いもの……と思ったのだけれど、なぜか他にもギラギラとした視線を向けられているのを感じる。


 ――何か不味いものでも踏んだかのような気分になった……けれど、とりあえず忘れておこう。今はまず、探索する事が第一だからね。

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