376・チーム『エールティア』

 なんとかチーム分けに成功した私達は、王都の入り口でそれぞれの目的地に行く事にした。

 私達の方はここから西に進んだ地方に拠点があるらしい。それならワイバーン便を使った方が速い。


「それにしても、俺達で良かったのか?」


 ワイバーン発着場でチケットを買っていると、アイビグは不思議そうにしていた。その顔のすぐ隣でスゥがだらんとしている見慣れた光景が広がっている。


「どういう事?」

「実力的にはレアディやローランの方が良いんじゃないか? って事だよ。俺はスゥと一緒で一人前みたいなもんだからな」


「……あたしたち、一心同体だからー」

「お前が俺の肩から動かないからだろうが」

「動くの……面倒」


 スゥの相変わらずのやる気のなさが、まるで伝染するようにアイビグに伝わっている。

 アイビグの方は結構まともなんだけれど……隙あればサボるって感じだ。あの治療院では結構真面目さを出していたけれど、こっちが彼の素と言っても良いだろう。


「だからアイビグ達に決めたのよ。あまり戦力が偏り過ぎても良くないし、かといって他のチームのところにいったら楽しそうだからね」

「……もしかして、そんな理由か?」

「ええ。適材適所というやつよ」


 まさか一応戦力バランスを考えていたとは思ってなかったのか、アイビグは深いため息を吐いていた。


「はぁ……楽はさせてくれないってわけか」

「当たり前じゃない。戦闘は基本的にジュールとアイビグ達にやってもらうから、そのつもりでね」


 嫌そうな顔をしているけれど、今回は仮に戦闘になっても私は戦わない。なんでも私任せになるのを避ける為でもあるけれど……個人的に三人がどう戦うのかを知りたいという気持ちもある。


「ティア様、準備が出来たそうですよ」

「ありがとう」


 ジュールとはチーム分けが終わった後に一言二言話したけれど、普段とあまり変わらない様子で接してくれていた。

 まるで魔王祭に出る前の頃に戻ったような気分だ。


「ジュール」

「何ですか?」

「ふふっ、呼んでみただけ」


 なんだかすごく懐かしい気持ちになって、ちょっとだけ意地悪したくなってみたかった。

 きょとんとした表情でこっちを見ているジュールが可愛らしく思える。


「うわー、あまーい……」

「こんなのを延々と見せ続けられるのか……」


 後ろの方でアイビグ達がうんざりしているけれど、随分な言い草だ。別に甘くないし、ずっと見せるつもりもない。

 ただ、ちょっと遊んでもいいじゃない。まだ敵地ってわけでもないんだしね。

 それに――


「貴方達だって似たようなものじゃない」


 え? みたいな顔をしているけれど、ずっとスゥを肩に乗せてるんだもの。彼女が降りた姿なんてほとんど見たことがない。治療院の時は流石に降りてたけれど、私と戦っていた時ですら肩に乗せていたんだもの。

 呆れるを通り越して恐れ入る。お風呂やトイレはどうしているのか聞きたいけれど、怖くて一歩踏み出すことが出来ないくらいだ。


「二人とも、仲がいいんですね」

「まあ、俺達はずっと一緒にいたからな」

「んー……一心同体」

「へー……」


 それが当たり前だと返したアイビグ達の答えに、ジュールは驚きの声を上げた。

 そういえば、彼らと会うのは今日が初めてだっけ。色々新鮮なのだろう。


「それで、ワイバーン便で行った後はどうするんだ?」

「今から出発したらちょうど昼過ぎ頃に着くだろうから……状況しだいね。町からどれくらい離れてる?」

「あー……っと、大体ゆっくり歩いて二時間ってところだな。遠過ぎたら食料の補充なんかが大変になるしな」


 かといってあまり近かったら意味がないような気がする。

 ……まあ、彼らは町や都市の近くに目立たないようにいる事が好きみたいだから、しょうがないのかもだけど。


「それくらいの距離だったら、宿を押さえてからでも余裕そうね」

「ラントルオ使うのか?」

「いいえ。歩くに決まってるじゃない」


 今回行くのは敵の拠点の一つ。わざわざラントルオに乗って行くなんて、自殺志願者くらいしかいない。

 最初は軽く走って、近づいてきた辺りから静かに歩けばいい。


「ですが往復に時間が掛かっては、宿に戻る時間がないかと……」

「ゆっくり行けば、ね。拠点に近づくまでは走ればいいことでしょう」

「一国のお姫様にそんな事させるのか……」

「見つかって面倒事になるよりはずっとマシでしょう?」


 そこまで頭が回らなかったのか、『なるほど』とでも言いたげな表情で納得していた。


「エールティア様! ワイバーンの用意ができました。準備をお願いします!」


 私達の順番が回ってきたようで、発着場の係員が手を上げて呼んでくれていた。

 その後ろには体格の良いワイバーンが三匹控えている。


「それじゃ、行きましょう」

「はい!」

「わかった」

「はーい……」


 三人がそれぞれの返事をしてくれて……そういえば、今疑問がふと湧き上がってきた。


「そういえば、スゥは大丈夫なの? 肩に乗ってるのって危ないんじゃない?」

「問題ないよ」

「前も乗れてたし、大丈夫だろう」


 ああ、一度試してた訳ね。ワイバーンに乗ってるっていうのによくあの肩から落ちないものだと思うけれど……二人が大丈夫なら問題ないか。そういうものなのだと思って気にしないようにしよう。

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