374・再始動
一日ゆっくり休んだ私に手紙が一通届いていた。
それはお父様からのもので、内容は――
『エールティア。そちらの事情はおおよそ把握しているつもりだ。こちらもダークエルフ族共に襲われはしたが……この程度の些事など気に留める必要もない。だからお前は、お前の出来る事をしなさい。次にお前に会った時、どれだけ成長しているかが今から楽しみだよ。 追伸・魔王祭優勝おめでとう。流石私とアルシェラの娘だ。誇らしく思う』
――ずっと会えなかった割には短いような気がしたけれど……お父様が私の事を思ってくれている事は十分に伝わった。もしかしたら、私がティリアースに戻ってくるかもしれないと思ったのだろう。
こちらの情報が大体お父様に行っているということは……私がそこまで心配していない事もお見通しなのだろう。文面に『心配するな』なんて書いていないのが良い証拠だ。
なにしろ私を産んで育ててくれた両親だ。二人の下には信頼できる兵士がいて、隠密部隊は常に活動している。それに……聖黒族には物心がついた頃に教わる事がある。
――どんな悪逆も謀略も、圧倒的な力の前には何の意味を為さない。裏切りも嘘も計略も、我ら誇り高き黒の一族はそれら全てを塗りつぶす。太陽は浮き沈みを繰り返しても、その輝きは決して衰えない。故に……魔王という太陽の元、蘇った我らは血の絶えぬ限り示し続けよう。我らこそ、『力』そのものであると――
最も大切な事でこれを誇りに生きる事こそ、聖黒族の在るべき姿だと何度も教えを受けるほどだ。
だから何も心配する必要はない。お父様は――ティリアースはこの程度では決して揺るがない。
この手紙はそれを改めて確かめさせてくれた。私は私らしく、前を向いて進んでいいんだと。
覚悟を決めたなら……行動は迅速じゃないとね。
「……雪風! いる!?」
手早く準備を済ませて隣の部屋に乗り込んで、大声で私の側に常にいてくれた彼女の名前を呼ぶ。
魔王祭では影で色々と支えてくれた大事な腹心を。
「エ、エールティア様!?」
急に大声で扉を開けた私に驚いて目をぱちぱちとさせている雪風の前に進んで、腰に手を当てて力強く経って見せる。
「ジュールの体調はどう? 連絡取り合っているんでしょう?」
「え、ええ……今も取り合っていますが……。それはエールティア様も同じなのでは?」
「泊ってる場所とかは知っているけれど、今あの子がどんな状況なのか知ってる訳じゃないの。出来れば教えてくれる?」
あまりにも唐突な質問に、困った様子でたじろいでいた。
だけど、私はジュールとあまり――というかほとんど接点を持っていない。
彼女と契約した身からしたら情けない話だけどね。
いや、宿自体は知ってるし、行った事もある。
だけどファリスを連れて以降……どうにも顔を合わせる事が出来ずにいた。タイミングが合わなかったというのもあるけれど、やっぱり心のどこかで気まずさが残っていたのかもしれない。だから、自然と遠ざかったのかも。
……だけど、今はそんな場合じゃない。
「かしこまりました。ジュールは今、元気にやっていますよ。戦闘が終わった直後は大分消耗していましたが……今は普段通りなのではないかと」
「そう……ファリス達がいた場所に行こうと思うのだけれど、行ける?」
お父様の手紙の言う通り、私は今出来る事をする。そう決めたのだ。
雪風は少しの間逡巡して、静かに頷いた。
「問題ありません。すぐに準備致します」
「半刻後に合流しましょう。それでいい?」
「かしこまりました」
さて……ジュールの事は雪風に任せて、私はファリス達の元に行こう。
全員連れて行くのはあまり効率的じゃないし、どうせなら手分けして探したい。
となれば、私達と一緒に行くのは――ローランかアイビグ&スゥが良いだろう。
ファリスはまだジュールとぎこちないだろうし、戦うとなれば彼女達の関係が戦闘にどういう悪影響を与えるかわからない。かといってレアディやアロズと一緒に行動した場合、今度は雪風の方に影響があるだろう。
ローランなら守りに長けている。アイビグとスゥの二人なら互いに連携しながら上手く戦う事が出来るだろう。
「エールティア様」
「……どうしたの?」
「レイアや
雪風の言葉に、今度は私が考える番になった。
レイアとは闘技場以外では会っていない。それに会話もしている訳じゃないから、どこに泊まっているかもわからないのだ。
以前、会いに行こうとはしたのだけれど……こちらの事を避けているのか、結局話せずにいる。
本当なら前の戦闘や副都に行った時も声を掛けておきたかったんだけれど、出来なかった以上仕方がないだろう。
「雪風は、二人の居場所知ってる?」
「はい。フォロウに教えてもらっています」
あの隠密部隊の人か。そういえば二人は接点があったんだっけ。
雪風に情報を送る事で私を動きやすくしてくれているらしいけれど……本当に良く働いてくれる。
「だったらお願いできる? 人手は多い方がいいから」
「はい。仰せの通りに」
雪風が頭を垂れて臣下の礼を取るのを見届けて、私も人を集めに動くことにした。
やる事、しなければならない事は多い。だけど、焦らず、しっかりと歩み続ければきっと先に辿り着ける。そう信じている。
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