216・未知の本気
『レイア選手、猛攻ぅぅ! エールティア選手は防戦一方で、最初の予想とは違った展開になっているぞー!』
戦況は変わらず、レイアが有利に見えるように立ち回って、彼女の強さをアピールさせる。ここであっさり倒してしまえば、今後、レイアに絡んでくる者も出てくるだろうしね。
「くっ、ふ、ふふ、私はこんなに必死なのに、ティアちゃんは随分余裕なんだね」
私が手を抜いている事に気付いているレイアは、少しずつ苛立ちを溜めているような表情を浮かべている。
「そうね。貴女の成長は認めるけど……それでも私と戦う水準には満たしてない。それもまた、事実よ」
「さっすがティアちゃん。でもね……私の力はこんなものじゃないんだよ! 【祖竜覚醒】!」
レイアの身体をがんじがらめに鎖が浮かび上がって、彼女はそれを思いっきり引きちぎって――身体が竜になっていく。
どっちかというとリザードマン族を大きくしたような格好で、黒と赤が鮮やかで美しい。
……レイアの姿を見た私は、ふと博物館に飾られていた最古神話の石板を思い出していた。二足歩行が可能な身体に大きな翼。人族は、彼らを真似して作られたと言われる始まりの竜。
初代魔王様の竜であり、始竜として覚醒を遂げたフレイアールが純粋に『始竜の力』に目覚めたのだとしたら、レイアは『始竜の姿』に目覚めた……という事だろう。
『こ、これは……レイア、選手?』
驚きの声が実況・解説席から漏れるけれど、レイアは気にせずに闘技場を出て高く飛ぶ。
翻ってこちらの方を向いて……口を開いて魔力を収束していく。
『ティアちゃん行くよ! 【グラッソンスフル】!!』
そこから放たれたのは、凍てつくほどの氷色の
――いいわね。ドキドキしてきた。
これほどの魔導。レイアが練りに練った一撃と呼ぶに相応しいだろう。今まで見てきた中で、最強の一撃。こんなものをまともに喰らったら、間違いなく氷漬けになって死ぬだろう。
――いい。心が高鳴るのがわかる。圧倒的な力でねじ伏せようとしてくる感情が伝わってくる。
あのライニーの時のようにあっさり終わらせてしまうのはもったいない。もっとじっくり……味わいたい。
「【フレアライズ】!」
以前使った【フレアフォールン】とは逆の、大きな炎の球が昇る魔導。それがレイアの【グラッソンスフル】に当たると、一瞬で飲み込まれてしまった。
『あは、あはは、無駄! 無駄無駄!! どう? 今の気持ち!? 降参するなら、やめてあげるよ!』
「……おめでたい事ね」
魔導が大きな音を立てて迫っているからか、レイアは拡声の魔導を使って私に訴えかけているようだ。全く、とんだお笑い事だ。この私が、この程度でなんとかなるって?
「いいわ。少しだけ、本気で遊んであげる。【リアマ・ディオス】!」
ずっと昔に想像したことがある。世界の全てを焼き払う炎。実際に使ったけど、見渡す限りが灰になっただけだった。あの時は使った後に、どうしようもない虚しさが襲ってきただけだったな。
あの時は周囲の全てを焼き払うイメージで解き放ったけれど、今回は方向性を持たせている。美しく光を放つ青白い炎が、レイアの放った【グラッソンスフル】を飲み込んでしまう。そのままレイアに向けて攻撃……は流石に死んでしまうからしない。
レイアの魔導を飲み込んだ【リアマ・ディオス】は、その役目を終えて消えてなくなり、広い空とこちらに向かって勢いよく降下してくるレイアの姿があった。
さっきのレイアよりもずっと大きな身体で放たれる鋭い爪撃は、それだけで普通の人なら無抵抗に引き裂かれる他にないだろう。
「【アグレッシブ・スピード】」
身体能力を底上げする【アグレッシブ】系の魔導を使用して、レイアの爪が私を斬り裂く直前にその場を離脱して、振り終わったと同時にそこに戻り、彼女の横顔に蹴りを加えてあげる。
『なっ!? くっ……なんで……なんで!』
「私と貴女の力の違い、理解出来た? 【プロトンサンダー】!」
『うっ、あああぁぁぁぁ!!』
私の蹴りに驚いた表情を浮かべていたレイアが隙だらけだったから、彼女のお腹の方に手を添えて、威力を抑えて魔導を解き放つ。
たまらず倒れるレイア。このままやれば勝つのは時間の問題だけど、今の調子じゃまた同じ事になるだろう。肝心なのは彼女に勝利する事じゃなくて、彼女を元に戻す事だ。
『は、う、うぅっ……【フラムアッシュ】!』
灰が周囲に舞い飛び、引火するように燃え盛る。私の動きを牽制する魔導のようだ。
「まだやるつもり?」
『ふ、ふふ、当然でしょ。絶対、諦めないんだから……!』
ゆらりと起き上がったレイアの目からは、戦意が衰えてなくて、いつの間にか私がつけた傷も再生しているようだった。
レイアを元に戻すにしても、まずは彼女の動きを止めないと話にならないだろう。なら……徹底的に攻撃を打ち消して、疲弊させて見るしかない。生半可な傷はすぐに癒してしまうみたいだしね。
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