215・竜人の戦い
「レイア……! その腕……!」
それは爬虫類の……そう、竜の手だった。アルフが竜として戦っていたのを見ていたから気づけたと言えるだろう。
レイアの手が私の横腹を掠め、服が少し破けてしまう。
「あーあ、せっかく一撃で終わらせてあげようと思ったのに……」
残念そうにペロっと舌を出したレイアは、次の狙いを定めているようだった。襲い掛かってくる彼女のコートが翻って――翼と尻尾が生えているのが確認出来た。半分人で、半分竜って感じの状態だろう。
「レイア……貴女、私を好きにしたいんじゃないの?」
「ううん。ティアちゃんを私の物にしたいの。だから安心して。死んだら……死体ごと私の物にしてあげる!」
襲い掛かってくるレイアの動きに合わせようとするんだけど……緩急をつけて捉えにくくしている。
切り替えの素早さ。そこから放たれる攻撃の鋭さ。どれもが以前の彼女と比較にならない。
「ふふっ、どうしたの? 避けてばかりじゃつまらないでしょう?」
昔と今のレイアの
「だったら、捕まえてみなさいな」
「……うふふ、やっぱりティアちゃんはそうじゃないとね」
燃えるような瞳で私の事を真っ直ぐ見据えている。どこまでも暗くて、情欲で淀んだ目。それでも純粋と言っていいほど私に釘付けなのは、それだけ私の事を欲しているからかな。だけど……今は彼女の想いに応える訳にはいかない。
「ほら! ほらほら!」
どこで覚えたのか、無駄な大振りを繰り返しているけれど……あれは私の事を誘っている罠だ。私の一挙手一投足を観察して――!
「くすくす、【フリーズスリップ】」
レイアの動向を気に掛けているタイミングを見計らって、彼女は魔導で地面の一部を凍らせて、私の足を滑らせてきた。
「足元がおるすよ?」
バランスを崩した私に向かって振り下ろされた爪。咄嗟に地面に手を付いて、横に飛ぶように避ける。横腹を掠めて――今度は血飛沫が飛ぶほどのダメージを受ける。
久しぶりに感じる痛み。ああ、確かにこんな感覚だったと思い出させてくれる。
「あらら、もうちょっとだったのに」
残念そうな顔で爪に少し付いた血をペロっと舐めて、艶やかな息を吐いていた。
「あは、あまぁい。とっても、美味しいよ。ティ・ア・ちゃん」
「そう? だったら嬉しいわね」
「あれ? 普通、そういう返し方するの?」
「どうせなら、不味いと言われるより、美味しいって言われたいじゃない」
美味しくないよりずっとマシ。そんな風に思っていると、レイアに思いっきり笑われてしまった。
「あは、あはは、あはははは! ティアちゃん! やっぱり貴女は素敵ね! 絶対――」
オーラとかが見えるなら、レイアは今頃真っ黒に染まっているだろう。それだけ、彼女の瞳には凄みがある。
「――手に入れて、私の物にするんだか……らあああぁぁぁぁっっ!!!」
レイアの口のところに魔力が収束して、叫びと同時に放たれる。これは――竜人族の
単純に魔力を収束して放つ攻撃だけど、範囲が広い。避けられるだろうけれど……それをすれば、間違いなく追撃を仕掛けられるだろう。
「【フリーズブラスト】!」
冷気を内包した爆風がレイアの
「【バインドソーン】」
お返しに拘束してやろうと魔導を発動させるけれど、レイアは激しい移動を繰り返して、私に迫りながら回避してくる。ここから再びレイアの爪撃が繰り広げられて、魔導の打ち合い。という展開になるだろう。
大体見切った。後は――
「【ファントムリアリティ】」
そろそろ本格的に攻撃に移ろうか……なんて考えていた時、レイアは新しい魔導を発動させた。その瞬間、彼女の身体がぶれて、幾つものレイアが重なって、分かれていく。複数のレイアが同時に襲ってくるのを考えると――幻覚で相手を惑わせる魔導だろう。
ならば、その幻覚の攻撃をわざと受けて、次いで出てくる攻撃にカウンターを仕掛ける。
「【フレアアクセル】」
更に魔導を上乗せして、炎を纏いながら加速してきた。だけど、いくら加速したところで本体は一つだけだ。迫ってくる幻のレイアに合わせて私も突っ込む。炎を纏いながら爪を振り下ろした幻の横を通り抜けようとして――感じた熱さに、嫌な予感がして、とっさに避ける。
爪が服を掠め、炎が肌を炙る。やはり、あれは本物。いや、実体のある偽物……と言ったところか。
「あーあ、残念。せっかく服を剥いであげるチャンスだったのに!」
連続で襲いかかって来るレイアが残念そうに攻撃を仕掛けてくる。速度の上がった虚実入り混じった攻撃。私の方は偽物倒しても、ほとんど意味がない。
なるほど、良く出来ている。レイアが急成長したのは嬉しいし、彼女の強さを肌で感じることが出来る。
――それだけに、惜しい。
今の彼女は十分に強いけれど……それでも私には遠く及ばない。後十年くらいすれば、まだ可能性はあるだろうけど……このままなら、私の【人造命具】を使う必要もないだろう。
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