132・空で吐露する気持ち

ウォルカと博物館に行った次の日。特にする事もなかった私は、リュネーとレイアの二人と適当に歩いて、食事をして……後は体が鈍らないように訓練するだけと、結構惰性に過ごしてしまった。


自由行動と言えば聞こえはいいけれど、そればっかりなのは流石に考えものだと思う。

結局適当に過ごしてしまって、その次の日。ガンドルグのワイバーン発着場に集合した私達は、それぞれ昨日何をやっていたか聞く事にした。


フォルスは新しい機械を考案。雪風は刀の手入れと素振り。

ウォルカはまた博物館に行っていたみたいだった。彼は本当にああいう、昔のロマンみたいなものに憧れるのだろう。


「全員、揃ったか?」


最後に現れたベルーザ先生は、一人一人確かめるように視線を向けて、全員がいる事に満足そうに頷いていた。


「よし、今からガンドルグを離れ、ドラグニカに向かうが……中継都市で一泊して、更に進む事になる。ワイバーンの背はそれほど快適じゃないから、あまりはしゃいで体力を消費しない事。先は長いんだからな」

「大丈夫っすよ。みんな子供じゃないっすから」

「ね、フォルス。もう無理して敬語使おうとしなくていいと思うよ。そっちの方が失礼に聞こえるよ」

「……そうか?」


きょろきょろと私達を見ていたフォルスを、ベルーザ先生は少し憐れむような視線で眺めていた。

そのままため息交じりに「それで構わない」とか言ってたから先生の方も諦めたようだ。


「……そろそろ時間だ。二人一組になってワイバーンに乗れ。わかったな?」

「はーい」

「わかりました」


動き出した私達は、私とレイア。リュネーと雪風。ベルーザ先生とフォルスでそれぞれのワイバーンに乗り込むことになった。ちなみにウォルカは小さいから先生達と同じワイバーンで十分だった。

ワイバーンが助走をつけて勢いよく空へと舞い上がった時に感じる浮遊感を楽しみながら、私達はドラグニカを目指すのだった。


――


「やっぱり、空って気持ちいい……」


後ろからぽつりと聞こえた呟きに耳を傾ける。


「レイアは竜人族なのよね?」

「う、うん。正確に行ったら黒竜人族なんだけどね」

「やっぱり空には何か思うところがある?」


竜人族って言うのは、竜の力を濃く受け継いだ者は空を飛ぶことも出来るらしい。多分、黒竜人族も同じのはずだ。だからこそ、空への憧れとかあるんじゃないのかな? って思ったのだ。


「……うん。そうだね。空ってすごく大きくて、こんなに広い場所を自由に飛び回れるなら……って思う。それが私が黒竜人族だからかは、わからないんだけどね」


えへへ、と照れるような笑い声が聞こえてくる。どこか遠慮がちなその声音だけが伝わってくるけれど、それだけで彼女の想いも響いてくるようだった。


「空も大地もこんなに広くて、私達はとてもちっぽけで……村での事とか、お兄様の事とか、全部小さく見えるような気がするの」


心に受けた傷は、決して消える事はない。癒えたとしても、必ず傷跡が残る物なのだから。

きっと、レイアは一生背負って生きて行くことになるのだろう。


「レイア。あまり思い悩まないようにしなさいね。貴女は自分の人生を精一杯楽しむ権利があるんだから」

「……ありがとう。ティアちゃんにそう言われると、すごく救われた気分になる」

「言い過ぎ」

「ううん」


あまりにも恥ずかしい事を言ってきたから、少し不服気に言ったんだけど、レイアは穏やかな口調でそれを否定した。


「ティアちゃんは私にとって、その……光みたいなものだから」


後ろにいるからわからないけど、多分照れているんだろうな。私の方が恥ずかしくなってくるような台詞を言ってくるんだもの。

だけど、私はそんな風に言われるほど、レイアを助けたつもりはない。


むしろレイアのお兄様との決闘の時なんて、結構突き放した事ばかり言ってたような気がする。


「私、大分きつい言葉を浴びせたと思うけれど?」

「でも、私の事をちょっとは考えてくれてたでしょ。そうじゃなかったら、あんな知り合って間もない頃にあそこまで言えないよ」

「それは……」


ただ、あの頃のレイアの姿が、私の昔に被って見えて……それに、いくら裏切られたとはいえ、あんな泣きそうな顔をした子に無関心でいられる訳なかったから。だから冷たくても叱るような言葉を選んだ。


「あの言葉がなかったら、私はずっと暗闇の奥底に沈んだままだったの。ティアちゃんが私を引き上げてくれた。だから……貴女は私にとって、大切な光なの。ちょっと、口にするのは恥ずかしいけれどね」


本当に、聞いてるこっちの方が顔を赤くなる。多分……私とレイアの二人っきりだから、こんな恥ずかしい事が言えるのだろう。


ワイバーンはそれなりに距離を取って飛んでいるから、他の誰かに聞かれる事なんてまずないだろうからね。


「そこまで思ってくれてるのなら、私も貴女の『光』でいられるように頑張らないとね」

「ティアちゃん……」


どうやら、レイアの気持ちが少しだけ私に移ったみたいだ。少しだ――結構恥ずかしい思いをしながら、私達は空の旅を進んでいくのだった。

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