77・得られた物
(熊の)獣人族の女の子を襲っていた馬鹿共は、威勢よく掛かってきた割には呆気なく逃げていってしまった。
「ちっ、このクソガキが! 覚えてやがれ!」
なんて捨て台詞すら吐いていなくなるのだから、本当に小物臭い連中だった。
「大丈夫?」
「あ……えと、うん。あり……がと……う」
まだ恐怖が抜けきっていないのか、辿々しく礼を言ってくれた。
「どういたしまして。……で、貴女はどこの子? 送って行ってあげる」
「え、えと……」
困ったような顔で戸惑いの声を上げる女の子に、出来る限りゆっくりと……怖がらせないように優しく近寄っていく。
私が危害を加えない事はわかってくれたのか、少しだけ怯えた表情が和らいでいるように見えた。
「さ、帰りましょう。ね?」
「……うん」
手を伸ばした私は、恐る恐るそれに応えてくれる女の子の手を丁寧に取って、優しく握りしめる。
「貴女、お名前は?」
「エーレン。エーレン・リュクレイン……」
「そう、私はエールティアっていうの。よろしくね」
「うん!」
女の子――エーレンは嬉しそうに笑ってくれた。やっとその顔が見れて……私も自然と顔が綻んでいくのを感じた。
――
エーレンがはぐれないようにしっかりと手を繋いで歩く。歩いている間に彼女もすっかり調子を取り戻したのか、楽しそうに笑顔を振りまいてる。
「あ、おとーさーん!」
きょろきょろと心配するように、何かを探していた体格の良い獣人族の男の人は、エーレンの声に気付いた彼は、すごい勢いでこっちを向いて……私に怪訝そうな顔を向けた後、エーレンの元気そうな姿に安心していた。
「エーレン! 中々帰ってこんから心配したぞー!」
私から手を離したエーレンは、両手を挙げて喜びを表しながら駆け出した。それを抱き締めるように受け止めて、男の人はエーレンを高い高いをしていた。
きゃあきゃあ騒いで喜んでいるエーレンを温かい目で見守りながら、二人の方に歩いていく。
「エーレンのお父さん?」
「ああ。あんたは……?」
「ティアおねーちゃん!」
空から地面に下ろされたエーレンは、元気いっぱいに手を挙げて私の代わりに教えてくれた。なんだかすごくほっこりする。……けれど、流石にその呼び方をされるのは嫌だから、しっかり伝えた方がいいか。
「エールティアと申します。その子が悪魔族の男に絡まれてましたから……お節介だとは思いますが、手を出させていただきました」
「悪魔族……ちっ、あいつらか……!」
どうやらエーレンに絡んでいた悪魔族の男達を知ってるみたいだけど……どうやら何か揉め事に巻き込まれてるみたいだ。
「エーレン。父さん言ったよな? 一人で外に出ちゃいけないって」
「……でも」
さっきまでの花咲くような笑顔は一気に引っ込んで、しょんぼりした表情で俯いてしまったエーレンを見て、思わず声を掛けようとしたんだけど……その前にエーレンのお父さんはぽん、と彼女の頭に大きな手を乗せて、優しく撫でた。
「お前が無事で本当に良かった。父さんな、本当に心配したんだからな」
「ごめん……なさい……」
怒られると身構えていたエーレンは、逆に優しくされた事に罪悪感を抱いたのか、眼に涙を溜めて謝っていた。それを宥めていた彼女のお父さんは、ひとしきり頭を撫でた後、私の方に視線を向けてきた。
「遅くなって悪い。俺はグルセット・リュクレインだ。娘を助けてくれて、本当にありがとう」
「ええ。あの子を知ってる人がいて、本当に良かったわ。エーレンも、せっかくお父さんに会えたんだからもう泣かないで……ね?」
「……うん!」
溜めてた涙をぐしぐしと腕で拭って、エーレンはにっこりと笑ってくれた。
やっぱり、子供は泣いてるより笑ってる方が可愛い。
「それで……エールティアの嬢ちゃんはなんでこんなところに一人でいるんだ?」
「本当は一緒に来た子がいるんだけど……宿が取れなくて二手に分かれていたところなの」
グルセットは何かを考えるように腕を組んで難しい顔をしてたけど……やがて頷いて笑顔を向けてきた。
「よし、それなら俺の宿に来な。エーレンを助けて貰った礼だ。出来る限りもてなしてやる!」
「……本当に良いの?」
まさか助けた女の子のお父さんが宿屋の店主をしてるとは思ってもみなかったせいで、思わず何かあるんじゃないか? と勘繰るような声が出てしまった。
「ああ。どうせ空いてるんだったら、使わないともったいないしな! その連れはいつ合流するんだ?」
それから私は、二時間後にジュールと噴水広場で合流する事を伝えた。グルセットは「わかった」とうんうん頷きながら、道案内人としてエーレンを付けてくれた。
最初は断ったけれど、私達はこの都市の店については疎い。結局、エーレンを連れて、噴水広場に戻ることになった。
「ティアおねーちゃん。ありがとう」
「? 別にお礼を言われることなんて……」
「おとーさん。いつもむずかしーお顔してたから。だから、ありがとう」
そういう純粋で真っ直ぐな好意を向けられると、かなり照れてしまう。だから――
「どういたしまして」
出来る限りの精一杯の笑顔で応えてあげること。それだけが私に出来る事だった。
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