春の到来を告げる
ドアがノックされた。
「・・・」
しかし、四月と書かれたドアからは誰もでてこなかった。
「困ったことになったな」
ここはとある会議場。十二の月を司る神々が円卓を囲んでいた。
「……やはり四月の神はまだ眠ったままなのか?二月の」
十二ある席のひとつが空席であった。眠ったままの神のものなのだろう。
「無理もありますまい、我ら一年の半分は寝ているものですが……十二月あたりは騒がしいですからなぁ」
二月と呼ばれた神がやれやれとつぶやいた。
「だが五月などとうに起きているではないか」
十二月の神が感心したようにいう。
「寝てるほうがもったいない気がして起きちまうんだぜ」
わはははと笑う幼い感じのする神だった。
「いささか差し迫ってはおりますが、花が芽吹けば起きてきましょう……フワァ」
担当月から半年を過ぎた神々は眠気に耐えられぬとウトウトしている。どうして今ここに呼ばれたかと不満をあらわにする。
「……しかたがない、今年もあれを呼ぶしかないか。頼むぞ、三月の」
全員の顔色がにわかにこわばる。
誰からともなく非難の声があがる。
「四月の部屋はあとで修理することにする。お寝坊さんを目覚めさせよ」
三月の神が受話器を取った。
「もしもし、春一番さんですか?」
暖かな季節が近づいてきた。
習作「ドアがノックされた」 じくぅ @Jicoo
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