それは声であるかのように

 ドアがノックされた。

 トントントン。

「こんばんは、あけてください」


 夕飯の時間に誰かが来る予定はなかった。

 トントントン。

「もしもし、どなたかいらっしゃいませんか」

 せわしなくドアがノックされた。

 私は箸を置いてドアへと向かった。

「誰だね、こんな時間に」

 私はそう声をかけ、ドアの覗き穴から外をうかがった。

 誰もいなかった。

 トントントン。

「もしもし、どなたかいらっしゃいますよね」

 それなのにドアをひたすら叩く音がした。

「ドアを叩くのをやめなさい」

 トントントン。

「あけてください、おねがいします」

 やめる気は無いようだった。

 イライラしてきた。私は怒りに任せて怒声を張り上げようと決めた。

「いい加減にしなさい」

 そして勢いよくドアを開いた。

 しかし、目の前には誰もいなかった。

 風が入ってきた気がした。

 辺りを確認し、ドアを閉めようとしたその時、何かが足もとを走り出ていった。

 飛び上がってしまうほど驚いたがその姿はもう確認できなかった。

「何だったんだ一体」

 少し冷めてしまった食卓に腰を下ろした。

 焼き魚が一匹なくなっていた。


 どこかで猫が鳴いた。

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