題名は後で考えましょう

 

 「私、倫也がいると描けない」

 酷く枯れた――涙が枯れた声で別れを告げられた。


 あなたは書かせることをできなかった

 プロのクリエイターは締切があってそれに向けて魂を削り、血反吐を吐いて作品を、我が子を作るの。

 でもあなたは澤村さんにそれをできなかった。彼女は抜け殻よ。見た目も中身も。

 

 俺は頭の中の英梨々を振り返ってしまい、余計なちゃちゃに突っ込むことができないほどの衝撃を受けた。


 このままじゃ、英梨々は二度とペンを持てなくなってしまうかもしれない未来が見えたから。


ヲタク業界の神とポンコツヒロインは出会う


 高3から同じクラスになった英梨々は何故か『風邪をひいた』とあからさまな嘘で休み明けから3日休んだ。


幻の7枚を超える1枚


 俺と加藤に同時にメールが来た


『家に来てほしい』

 と短いメール。


 2人してアイコンタクトで「?」と同じ反応。

 微妙な距離感で歩いていく。

「ねえ倫也くん。英梨々どうしたの? これって前に教えてくれた……? 死亡フラグってやつかな?」

「親友がそれ言う……?」

 でも流石にフラットな感じではなくて、純粋に友達を――親友を心配する1人の女の子がいた。


 小百合さんが案内してくれた部屋のど真ん中には1枚の大きなャンバスがあった。

 その絵の前に英梨々立っていて肝心の絵は麻の布で隠さている。


「紅坂朱音に、私言われたの

 「たまたま調子良く自分のレベルじゃ描けない絵を描けて」

 「目だけ肥えて腕が追いついてない」

 「まぁ要するに下手くそなんだよ」


 悔しくて悔しくて。

 そしたら3日で描けちゃった。」


少し苦味のある、でも満点の笑顔で、目尻に少し涙が潤んでる


そんな”加藤 恵”がいた。


背筋がゾクリとするほどの”加藤 恵”がいた。


そして一言

「私、倫也がいると描けない。だから」

そうして英梨々は俺からまた離れていってしまった。



毎度おなじみの喫茶店で神と信者は決意する


「私も行くわ。あの子が1人になっら確実に潰されちゃうしね」

珍しくわざと誤解されすような言葉とかがない、でも俺にも意地がある。

「紅坂朱音は間違えた」

 本当にわからないようでそれはそれはカチンとくるもので。

「詩羽先輩、いや霞詩子は紅坂朱音の思い通りに扱えないクリエイターなんだ! 予想を遥かに裏切って、期待以上のシナリオを書く! って本気で思ってるよ」

固く握っていた手をぎゅっと握られた。温かい。

「倫理くんにそう期待されたら斜め上を行って、マルズ作初のエロゲ とかどうかしら」

「……全年齢対象にしてください」


さてそろそろということで外に出て


「英梨々のこと頼むね」

「詩羽先輩のことも頼むね」

「紅坂朱音のところで思いっきり暴れてきてね」

「最高のフィールズ作品にしてね」


 俺は何時間だろう。ずっと上を向いて声は出さずに泣いていた。



そうして.....


「じゃあ……行くね?」

下を向いたままの英梨々。新幹線のホームで俺と詩羽先輩を含め3人は、別れの時を迎えていた。

もしかしたら俺に「やっぱり行かないでくれ」って言って欲しいのかもしれない。言いたい気持ちはすごくて、我慢してるだけでも泣けてきて。でもそれを言うことは心の奥底で否定している。

「ねぇそのメガネちょうだい?」

金髪が少し顔にかかってメガネあとは視界がぼやぼや。

「一応替えのメガネあるからいいけど……、しかしそれ加藤が選んでくれたやつなんだが」

「だからいいの」


??「じゃあ私はこっちを」

うわっ甘い匂い。くちびるかな?あったかくて気持ちいいぃぃぃぃぃぃぃじゃない!

「霞ヶ丘詩羽ーー」

すごい女を感じさせられるキスだったなぁ。安定のツインテビンタ。


構想練ってたのに違うルートへ入ったわ


「倫也くん?」

「安芸倫也くん?」

 まだ雨が降ってる。俺にだけ降っている。なんで幼馴染の出世で泣いているんだろ……。

 急勾配な坂の下で泣いていた。」


って正面からいきなり抱きしめられた。

 俺より少し小さい背丈。「ふつうにかわいい」という謎な属性を持った俺たちが作るギャルゲーの”メインヒロイン”加藤恵だ。

「とりあえずここだと寒いから倫也くんの家行こうね」

 いつもなら「なんてチョロイン」って笑うところだけど、今はそんな元気もない。

「倫也くん、英梨々と霞ヶ丘先輩作ってるフィールズなんちゃらのネット中継の誘い来てるよ?」

 

リアルタイムでフィールズクロニクルのキービジュを恵と見ていたのだが……

英梨々「No.1になってやる」って勝ち誇っている様が容易に浮かぶ。

「もうとっくにNo.1だよ」

「No.1だねー」

凄い作画を見たのに、恵の心には暗雲が立ち込め始めていることを隣の本当の意味で鈍感なヲタクは気が付かない。


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