第六十四話 関連性と疑問




 ――――まさか泊まるだなんて言わないっすよね?

 そんな一言によってあっけなく追い出された神社を前に、溜息を吐いた。


 夜の町中は静まり返っている。

 もしくは通行人が家へ帰るために歩くか遊び歩くか。俺のことを見る人もちらほらいるが……きっとそれは、ゲームでの俺と酷似した顔をしているせいだろうなと思った。


 素直に自宅と思わしき教えられた住所へ行くか、もしくは別方面を調べるか……。

 しかし今は休んでいる暇はない。いつまた妖精が現れるのか分からないからだ。


 アレが夢だったらどんなに良かったか。妖精なんていないと信じられるならどんなに素晴らしいことなのか……。

 現実逃避しても何も始まりはしない。必要なのは妖精が二度と俺たちに近づかないようにする方法。それだけだろう。



「とにかく、収穫はあった。あの夢は本物のはずだ……」



 今まで妖精のせいで嘘か本当かが分かりにくくなってはいるが、天はきちんと言ってきた。俺の見た夢は本当の過去の出来事なんだと。

 そしてあれが始まりなんだということも。


 このまま何もしないよりかはマシかと思い、家に帰るより先に調べ物をすることにした。

 朝比奈一家の敷地内にあった。あの神社らしき場所。妖精に囚われていた時に見たあのボロボロの神社に似た光景だった。


 何故妖精はあの疑似的に作り上げた世界の中で朝比奈家の敷地内にあると忠実に再現しなかった? 俺達に教えたくなかったからか?

 夢の中で見たあの妖精の呟き声にあったように、俺達があの場所へ行くことを恐れていた。そして天に叩き起こされる直後に見た妖精の苦悶の表情からして……何か、妖精の不都合な存在があったはずだ。


 でもそれは海里が思い出してと言ったものに含まれるのかどうかは分からない。

 もっと分かりやすく、もっと決定的な何かがあるかもしれない。なんせ妖精からも言われたようなものだし、海里からは何度も言われているし。


 ……それに妖精がわざわざ俺たちを出してきたことも、あんなよくわからない世界で繰り返し高校生活を送らせた意味も理解できない。



 それをする必要があった?

 そうしないといけない意味があった?



(俺が夢で見た時は俺の身体が紅葉秋音だったのは……魂が飛び出したとか憑依とか……そういうのが原因のはず……)



 つまり俺は今、神無月鏡夜に成り代わった状態でいるということ。それを鏡夜が受け入れたということ。

 でもなぜなんだろうか。紅葉秋音の意識を奪い続けることを良しとしなかったからか。それともほかに何か……鏡夜が俺に憑依されても良いと思う何かがあったのか。



「くそ……自分が何なのかわかんなくなるこの感覚が嫌だ」



 舌打ちを鳴らして歩き出す。

 自分が紅葉秋音でも神無月鏡夜でもどちらでもあるような感覚とごちゃ混ぜになった記憶のせいで思考が回らない。


 考えていても答えが出るわけじゃない。ならば今は調べよう。

 とにかく調べて、答えを探さないと分からない。



 朝比奈家の敷地内にあるらしいあの神社へ行ってみようか。

 罠の可能性もあるが――――何もせず妖精が出てくるまで怯えた日々を送るより断然マシだろう。



 道端で立ち止まり、朝比奈家について軽くスマホから調べていく。

 ふと調べた先にあったニュースが見えて息が詰まった。



「未雀燕。それと朝比奈陽葵が行方不明……」



 紅葉秋音もそうだった。

 まさかあの地下に行った奴らが行方不明になっている……のか?

 





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