第二十四話 始まりの一部分
そもそもおかしい部分があったんだ。
これはある程度予想していた――――。
だって桃子によってあのよくわからない過去の記憶を見せられた時にあったんだ。
紅葉秋音としての記憶だけじゃない。神無月鏡夜の記憶が一部混じっていたということに。
夢の中での視点は常に秋音だけだった。だというのにあの学校の――――秋音が休んでいたはずの、家で眠っていた時の記憶はおぼろげなのに対し、鏡夜が学校に来た時の記憶が鮮明だった。
秋音に対して心配していたような心境さえ理解できた。
過去の鏡夜の一部分だけがはっきりと見えたんだ。
そんなのおかしいだろう。
俺が『紅葉秋音』なら、鏡夜の記憶なんて見れるわけがないだろう。
「……前世の記憶は、鏡夜が持っていた? じゃあ小学校五年の、あの時の記憶は?」
「小学校五年……の、どのとき?」
「秋から冬にかけて起きたこと。……多分数か月はかかっていると思うけど……」
「……ボクは、そんなの知らないよ」
「でも何かは知っているんだろう!?」
「そりゃあね。でもそっか……また別の問題が起きているんだ……」
「別の問題って?」
燕は首を横に振る。
俺が期待している答えを全て出せるとは言えないような目で。
ただ、過去に起きた記憶にない出来事の一つとして……仲睦まじい様子の写真を見て――――。
「ボクが貰ったノートは……ただ、念のためにって渡されたものだよ。この世界について、何処に行けば解放されるのかについて――――陽葵は知らないし渡すつもりはないけれど、神に愛されている天に渡そうと思っていたもの……だけど、このままじゃだめかな……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。状況を整理させろ!」
頭が痛いのは、知恵熱でも出ているのか否か。
燕が俺の言葉に対して頷いて、ただリュックの中から先ほど入れたノートを取り出してきた。
しかしまだ見せようとはしない。
だからその間に考える。
俺は頭を弄られた。鏡夜の記憶の一部分があるから―――――たぶん、鏡夜の記憶を受け継いでいる可能性が高い。でもそれは一部分のものだろう。
そもそもその前世のゲーム知識がすべて正しいかは分からないのだから。
「別の問題が起きたって言ったな。どういう意味だ?」
「……一度起きた問題が、俺たちから偽りの記憶を入れられ、ある程度仲を引き裂かれたのは分かる?」
「ええっと。つまりこの写真を撮ったあと何かのきっかけで俺たち全員が仲違いしたと……あれ、でも小学校の頃の俺は鏡夜と一緒にいたぞ?」
「ボクも陽葵と一緒に幼馴染の記憶があるよ……だから多分、全部が消えたわけじゃないと思う……まあ憶測だけど……それか、そういう風に調整していたか」
いやな感覚だった。
憶測と言っても、ありえる話だった。
頬から冷や汗が流れ落ちる。
この後急に化け物に襲われたら絶対に死ぬだろうと思えるぐらいには、体がまともに動かない。それぐらい震えていた。正気が失われていくような感覚だ。
どれを信じたらいいのか分からなくて……でもきっと、燕の言葉は信じられるだろうから……。
「ノートには……何が書かれているんだ?」
「ボク達が一緒に居た時の記憶。何も思い出せなくなる可能性が高いって書かれていた鏡夜の考え。そしてこの妖精が作り出した世界の穴について――――」
「穴?」
「フユノ神社……いや、夕日丘神社って覚えてる?」
「あっ―――――!?」
「……秋音?」
燕の声に反応が出来なかった。
頭が痛い。
視界に何か、違和感が起きる。
めまいのような感覚。世界がぐるっと回っているようなそんな――――。
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