第5話 そのネタに触れるな

 とりあえず生だよねって、あと枝豆と、刺身の舟盛り、ポテトサラダ、焼き鳥の串盛り。昨日、お洒落なルーフガーデンBBQパーティーだった藤田くんのチョイスは色気がない。


 社内の噂話を軽く流して、じんわりお開きも近くなるかな?


「で、要たち、付き合って長いってなんで分かるんですか? 」


 あー、そのネタか。はいはい。


「それねー。まぁ、同じ部署ってのもあるけど、綾香さんが急にLIN□を社内でも繋げ始めたのよ。あ、これは、社内に男出来たな……って」


「怖〜っ」


「で、要くんと時間差あってもプライベートな通知チェックしてる綾香さん見てたら、怪しいでしょ」


「どんだけですか」


「しかも、日曜日夕方デートに家電量販店入る? どう考えても半同棲ぐらいしてるわ。同じ最寄駅に住んでて要くんが荷物持ってたし、綾香さんのマンションまで持ち帰るんでしょう? 」


「そこまで……」


 感心する藤田くんを前にグイッとビールを飲む。会社での態度とプライベートの甘々な要くんと綾香さんのギャップが羨ましい。


「しかも、何このLIN□。要くん、BBQの詳細の質問無し。ドレスコード合ってる。これは、綾香さんから直接聞いてるんでしょ? 」


「白沢さん、すごいっすね! 」


 ……褒められてこんな虚しいってあるのかな。この観察眼で奥手なのマヌケでしょ? そろそろ彼氏欲しいわ!


「いやいや、藤田くん。君、二人とやり取りして気がつくべきでしょ……」


「ほんと、それ。で、ビッグニュースなんですけど〜」


 え、ちょっと待って……


「井達さん再婚するっぽいですよ」


 言ったなぁ! 藤田ぁあ!!


「き、聞きたくなかったぁあ〜〜っ!! 」


 ビールジョッキ片手にテーブルに突っ伏す。思わず大きな声になった私に店内の視線が集まる。あーもう、なんで今日藤田くんと懇談の設定したのよ、私!!


「へえっ? 白沢さん、井達さん目当てだったんすか? 」


「目当て言うな〜」


 目当てどころか、遠巻きに見てただけよぉ。ファンの一人でしかないわよ。私が半泣きになるハプニングにたまたま出会でくわしたモブな藤田くんに無性に腹が立つ。喜怒哀楽の哀を怒に変えて、涙を堪えた。


「藤田、てめぇ、余計な事を言いやがって」


 突っ伏したテーブルから凄みを利かせて思わず藤田くんに八つ当たりを始める。


「……なんで俺のせいなんですか。口悪くなってますよ、おめかし台無しっすよ」

「おめかしとか、台無しとか言うなぁあぁぁ〜〜!!」


 なんだ、その、おめかしって!! 美人が台無しって言いなさいよ!!


「藤田、コロス」

「はいはい、まさかの絡み酒すか? 」


「帰るわ」

「送りますよ」


 もう帰る。真っ直ぐ帰る。社内カップルリサーチも止める。もう止める。痛々しいから。


 会計を済ませて居酒屋から出る。2時間は居たから8時過ぎか。駅前はまだまだ人通りがあるけど、明日は月曜日だし……頃合いかな。


「白沢さん、ワリカンにしてくださいよ」

「いいわよ別に」


「じゃ、もう一軒寄りましょうよ。いくらなんでも早過ぎません? 会って二時間ですよ」

「……送ってもらわなくてもいいならね」


「LIN□する仲じゃないですか? 少しは話聞きますって〜」

「分かった」


 居酒屋からの二軒目はカラオケBOXに入った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る