第4話 セルフご祝儀
居酒屋の狭い店内は、大人数よりも家族やカップル向けにレイアウトされていて、今日のお題を話し合うには適当。デートじゃないところが、情けない。
「いやー、見ちゃいましたね」
藤田くんのテンションは高い。難攻不落と言われてるアラサーの綾香さんを同期がゲットしたとなると、妙に誇らしいみたい。男の子てそんな事で盛り上がれるの、単純過ぎない?
「要くんの押し勝ちかな。要くんなら私も速攻で落ちるわ」
「ちぇっ、要ズリィなぁ〜。綾香さんかぁ、羨ましい〜」
目の前に女の先輩の私がいるだろ! まぁ、私も綾香さん好きだけどね。上司としても先輩としても……かわいいのにずっと独身で男っ気無かったのを見てきたから、お幸せに♡って感じよ。ただ、今、人の幸せを楽しめる気分じゃない。
「井達さんじゃなかったですねぇ〜……」
「ちょっとストップ! 」
いきなりその話には流れないでもらいたい。こっちの事情だけど。
「? 」
「まず、宮原さんと金井さんのネタでしょ。そっちの話からしてよ」
うちの会社の闇ルール。社内結婚が決まったカップルから社内報前に署名をもらった三名までが社長から直接金一封をもらえる。
私は過去に二回も授与を受けている。二回目は元カレからゲットというマヌケさだったけど。社内カップルリサーチは私の道楽であり、プチセルフご祝儀なんだ!
しかし、彼氏無し歴を作る原因にもなりつつあり、大変痛々しい趣味と化しているが。
「あー、すみません。宮原さん、社外に彼女居ました」
「はっ!? 今日、そのネタで集合したんでしょ? 意味ないじゃない」
「いやー、今朝知ったんですよ」
「それ、LIN□してよ」
「ごめんなさい。でも、ほら、要と綾香さん目撃出来たのも俺との約束のお陰じゃないですか? 祝杯ものでしょ? 」
藤田くんは怯まない。けろっとしている。そもそもその気になれば要くんから直接聞けるネタじゃないの???
「まぁ、そうね。藤田くん、なんで気が付かなかったの? 」
「えー? 要、綾香さんのLIN□知ってるのに、昨日のパーティーの話を綾香さんから部署の仕事でもないのに聞けないって言ってたから〜」
アリバイだよ、それ。
「はぁ? ちょっと要くんとのLIN□見せて」
「良いですよ」
スマホ渡してくれればいいのに、鈍感な上に図体がある藤田くんごと私の方に寄ってくる。狭いって! 肩ぶつかってるって!
いやいや、性急だわ。早く話を終わらせて帰りたいけど、井達さんのネタには触れないようクッションの数は増やさなきゃ。
「ちょっと待って。まず、オーダーしようよ」
と、言うと、藤田くんはメニューを長い腕でヒョイっと取って私の前に広げて覗き込む。この子は、人とのパーソナルスペースが殆ど無いのか、ボケてるのか。これはカップルの距離感だよ。……そうか、だから鈍感なんだわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます