第6話 "あーくん♡"
間接照明の微妙な明かりの部屋。体内時計で目覚めたけど、今何時? どこ、ここ。
いや、分かるし、そのぐらい!!
「起きた? 」
「……」
藤田くんと裸で並んで寝てた……。硬直する私の横で、藤田くんは体の向きをこっちに向けて欠伸をする。「おはよ」と、呑気な藤田くん。
待て待て待て……なのこの『朝チュン』。全然、爽やかじゃない。ラブホテル特有のチープな密閉感が気分を萎えさせる。藤田くんが私の顔を覗き込んでくるから、私は焦って顔隠しに布団に潜る。
「覚えてる? 」
「……ちょっと待って」
思い出している。
もう、凄い思い出してきた。
「カラオケBOXで」
——止めて。
「警告受けて店出たの覚えてます? 」
——いやぁぁ!!!
私は更に布団を深くかぶる。
カラオケBOXでカラオケ熱唱してカクテル飲んで酔った私は、事もあろうに藤田くんにエロい事をして店から警告を受けたんだった。
藤田くんのパーカーに後ろから手を突っ込んだ(気がする)。パンツの中にも手を突っ込んだ(気がする)。藤田くんは何度も「やめましょう」と注意してくれた(気がする)。膝に乗り上げて抱きついてキスした(気がする)。
いやいや、気がするじゃ済まないだろ!! やった、やり散らかした。部屋にスタッフから電話がかかってきて、藤田くんが未成年者かどうかを確認されてたわ!! 藤田くんが運転免許証持ってなかったら、警察呼ばれてたかも知れない。
藤田くんに引かれて直ぐカラオケ店を出た流れで……あ、ここからは藤田くんに促されてラブホテルに入ったんだけど、ほぼほぼ私が誘ったようなもので。
大人がやる事ではない。
「ごめん! 」
凄いセクハラして醜態を晒して藤田くんに迷惑をかけまくった上に、この状況。
「あ、結構覚えてるんですね」
藤田くんのストレスフリーな声にちょっと救われる。ホッとしたのも束の間、潜り込んだ布団の中で私の体の下に腕が滑り込んだと思ったら、藤田くんが覆いかぶさってきた。
気まずくて隠してた顔の目の前に藤田くんがにこにこと現れて、身体の重さを乗せてきた。朝から元気なのが、二人の体の間に挟まる? 不甲斐なく喜ぶ我が身……
「ねぇ! 藤田くん! 」
「"あーくん"でしょ? 」
昨夜はラブホテルに入って早々、私たちは要くんカップルの真似ごっこをして、名前で呼び合ってノリノリでイチャラブしたんだった! 私はすっごいご機嫌で藤田くんを"あーくん♡"って呼んで、色々撫で回して「わんわんかわいい〜」って盛り上がった。完全にはしゃいでた……どっかブッ壊れてたわ!!
今になって身震いする……自分が怖い。
「まどか♡」
「!! 」
藤田くんは、昨夜の延長のノリで慌てる私を揶揄う様に下の名前を呼ぶと、私をベッドに深く沈ませるようなキスをする。
「まどか……」
キスの合間に名前を囁かれ、よじる身体を擦り付けられて身体ごとキスをしてるみたい。チャラけた藤田くんが、急に甘い恋人モードで抱きしめてきて動揺する。
「や、待って! 」
正気を求めるように抵抗すると、藤田くんは直ぐに体を浮かせて私を自由にした。私は無言でベッドから裸で逃げて、浴室に飛び込んで……追いかけてくるかも知れない藤田くんに警戒しながらシャワーを浴びた。
バスタオルで身体を包んで気不味い感じで部屋に戻ると、藤田くんはもう着替えてる。
「ごめん、今から家戻れば会社間に合うから」
今日は土曜日の代休で休みの藤田くんに一言伝えて、服と荷物を抱えて再び浴室にこもる。慌てて支度をしてラブホテルを出ると、二人黙って駅で別れた。
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