嗚呼、酒よ  その1

 私はお酒が大好きだ。

 無いと生きていけないくらいに、大好きだ。

 アル中といわれるかもしれない。けれども、アル中ではないのだ。ただ、単純に、好きなのだ。

 どのくらい好きなのかといわれると、暇さえあれば呑んでいたいくらいに、好きなのである。朝から寝るまで、一日中呑んでいても平気なくらいだ。

 ビール、日本酒、ワイン、ウイスキー、焼酎、チューハイ、カクテル、なんでもこい。とにかく、大好きなのだ。

 特に好きなのが、日本酒だ。人生初めて口にしたお酒も、日本酒だ。

 若いころはカクテルやワインのようなおしゃれなものを嗜む程度に飲みたい、と思っていたものだ。最初のうちはやはり、こういうところから少しずつ飲んでいたのだが、なにかをきっかけに、急に日本酒へと走り出した。

 日本酒と聞けば、あんなのおじさんが飲むもの、と少し蔑んでいたものだが、その「おじさんが飲むもの」に、私はのめり込んでしまったのだ。

 そもそも、はじめて口にしたのは、小学校五年生のときである。

 年に一度、町内でお祭りがあり、その町内の子供会が毎年御神楽奉納をすることになっている。もちろん、お祭りだから御神酒は欠かせない。振る舞い酒として樽酒を用意するのがどうやら昔からのしきたりらしい。当然、どんちゃん騒ぎになる。当時はいまのように厳しいわけではないから、飲酒運転も平気で行なっている。大人もついつい子どもにお酒をすすめてしまう、かどうかはわからないが、私も勧められてお清めとして口にしたのである。

 しかし、それがなんとも美味しかったのである。

 子どもでもそう思うからには、上質なお酒だったのだろう。もうひと口、とねだったが残念ながら口にすることはできなかった。

 それからはその味さえすっかり忘れ、お酒を飲むなら前述のように、と思うようになり、実際にそうなったのであったが、いつの頃だろうか。あれはたしか社会人になってからだろうか。

 私の実家の近くに、日本酒蔵がある。

 そのことを知ったとき、興味本位で飲んでみたいと思ったのだ。

 まだ、いまのように日本酒がブームになってはいない時代。日本酒といえば神戸灘の男酒である大関、京都伏見の女酒である黄桜や月桂冠が主流の時代である。そんなときに、地元のワンカップを試しに飲んでみたのである。

 ーーこれは、美味しい!

 あの透き通る水のような喉ごし、米の味わい、つんと香る日本酒独特の醸造香。それはまさに、子どものときに飲んだあの御神酒、そのもののように感じたのである。

 ーーこんなに美味しいものがあったのか……。

 そのとき私は、ビールよりも先に日本酒デビューしたのであった。そもそも、子どものころにすでにデビュー済みではあったのだが。

 それからというものは、もっぱら飲むなら日本酒になった。有名なものは試しにいろいろ飲んでみた。しかし、やはり地元の味が自分の味覚に合うのだろう、それが一番美味しく感じたのだった。

 やがて一人暮らしをはじめ、酒呑みの花は一気に開花する。

 都会とは素晴らしいものである。歩いて数分に居酒屋やバーがあるのだ。毎月の稼ぎを使ってスーパーでお酒を買い、お店の新規開拓をし、店員さんに顔を覚えてもらっていろいろサービスしていただけるようになった。バーに行けばなにも言わずにお決まりの最初の一杯が出てくる。居酒屋に行けば裏メニューを出してもらえる。日本酒好きの店長と気が合えば、隠し酒を提供してくれる。こうなるとますますお酒が呑みたくなる。お店を出れば、しめのスナックだ。若い女の子と話をしながらお酒を呑むこの贅沢は、なんとたまらないのだろうか。

 そうして私は、給料の半分をお酒に費やすことになったのである。

 いまだから言うが、若者よ。お酒は飲んでも呑まれるな。

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