全て防ぐ

 以前何かで見た記憶での情報に過ぎないけれど。

大昔の、冤罪による逮捕事件。

無理矢理の自白を取り、表向きには事件解決をしたように見せかけた。

表向きには解決した事件と言うだけで。

本当の意味で解決していない事件も多いのかもしれない。

だとしたら。

それをそもそも何も起こっていないように報道側に規制をかけているものも。

もしかしたらあるのではないか。

私が考えたのはそこだった。

だとしたら行方不明になっている菅野帝と言う人物にも納得が行く。

何かの事件が起き、その犯人なのか、或いは冤罪をかけられて何も無かったようにされたのか。

どちらかは分からない。

「なるほど? でも、どっちかを確定するのは、もう想像でしか無いわよね」

 優子の言う通り。

けれど、それと彼の遺した建築物が何も無い。

そして殺人事件の舞台となった建物の情報を組み合わせれば。

どちらが可能性として考えられるのかは言えるだろう。

「冤罪で罪を問われ、行方不明者として処理されたんなら、相当の恨みがある……って事よね」

 ここまで推論を繋げる事が出来てしまうのであれば。

何かあと一つの決め手さえ見つかれば良い状況だろう。

後は黒の御使いの目的。

一番恨みのある人物が誰なのかは分からない。

けれど、その人物が警察内部にいる人物なのは推測できる。

それなら……。


 力を貸して欲しい。

例え叶わぬ想いだとしても。

無意識の内にだろう。

私は両手を組み、考えていた。

誇りに思う。

貴方との出会いを。

こうして自分の思い通りの事が出来るのも。

良い意味で色々変わる事が出来たのも。


 取り返しのつかないような大犯罪。

私はそう読んでいた筈。

それなら。

1つの結論が導き出せる。

優子にそれを伝えようとしたけれど、優子はフロントガラスの向こう側をただ見ている。

視線を向ける。

歩いて来る1つの影。

いつの間にか夜になっていたのだろう、顔は見えないけれど、小柄なシルエット。

車は人通りの少ない路肩に止めている。

シルエットの持ち主が誰なのか直ぐに分かる。

すかさず優子は車を降りる。

車を乗っ取られないよう、窓だけ開けて様子を伺う。

「こんな所で何してるのかな? 吉野優子」

 優子は構えを崩さない。

声の持ち主は他の誰でもない。

皇桜花。



 警察に後を任せ、戻ったのはPCPのモニターから、地下通路の出口を見つけ次第犯人の逃走経路を逆算する為。

戻るまでには多分逃走経路が割り出されてると踏んだ。

第2の事件の被害者も警察関係者だった人物。

これと警官同時殺人の事件を併せれば。

間違いなく警察を黒の御使いはターゲットにしてる。

ただ1つ疑問は。

警察の戦力を削いで、別の所を狙ったりするのだろうかと言う事。

もっと単純に考えるのなら。

警察自体にその目的があるかもしれないって漠然とした推測。

楓達の結果次第だけど、大丈夫だろうか。

PCPの拠点に戻ると、楓と姉ちゃん以外は帰って来てた。

「坊ちゃあああああああああああああん!」

 何で弦さんまで痛い痛いぎゃあああああ!

って茶番を終え、モニターを見る。

大きなモニターは8分割され、それぞれが別々の場所を表示してる状態。

「警察への通報を餌に、今度は駆け付けた警官を殺害しに来た。だが、柳生さんのお陰で黒の御使いの末端を確保する事に成功した」

 要はここで通報の電話を全て取り、逆探知で場所を特定。

ここのモニターで本当に事件が発生してるのかどうかをチェックしたって事だろう。

そして弦さんが駆け付け……。

凄いと素直に思った。

「江守信男さんと美園渉さんから、私はお話を伺って来ました。江守さんの話から、久遠正義が被害者の心の闇に付け込んで事件の真相を聞き出し、殺人を教唆していると推測しています」

 華音ちゃんの表情が大人っぽくなったように見えたのは、目に力がこもってると思ったから。

多分、犯罪者に秀介を重ねたんだろう。

華音ちゃんは兄妹だから。

そこにきっと何かを見つけたんだろうと勝手に心の中で思っておく。

「あたしは柳生さんから詳しく話を聞いて来たわ。チンピラ同士の争いに、黒の御使いで関わってるスネークが絡んでるかもしれない」

 だから弦さんがいるのか。

拓さんが由佳に頼んで……ああ。

そこで策を思いついたから弦さんにって所だろう。

後は楓と姉ちゃん。

黒の御使いの目的を。

だけど、それを易々と放置するだろうか。

「確かに。我々が黒の御使いを確保した途端、皇桜花本人からここに電話が掛かって来た」

 大方理由はここに連絡が行くのを邪魔する為だろう。

って事は。

皇桜花自身は自由に動いてる可能性が高い。

なら、黒の御使いからの連絡を纏めあげながら動いてる。

そして絶妙のタイミングでこっちに攻撃をかけて来てる。

だったら楓達が乗ってる車だ。

それをモニターで表示させる。

2人の人物が対峙してる映像。

拡大し、やっぱり姉ちゃんと皇桜花だ。

拓さんのスマホが鳴ったのはほぼ同時だった。

「そうか。分かった」

 犯人の逃走経路が分かったんだろうか。

「それもそうだが、確保した黒の御使いのメンバーが意識を取り戻したと情報が入った」

 ……。

楓達の応援。

逃走した予告殺人の犯人の追跡。

そして黒の御使いの事情聴取。

拓さんは事情聴取だろう。

「私はここに残ります。翔太さん」

「坊ちゃん、私はお嬢の元へ」

「あたしは翔太と行くね。華音ちゃん後はお願い」

「では、有村様と私は残りましょう」

「だが、そうなると警察への通報に対応出来なくなる……」

 流石に警察以外の人間にその対応を任せるのはまずい。

かと言って拓さん以外の警察の人間を中に入れるのもまずい。

あ。

でも俺と一緒に行動してくれた警官の人ならどうだろう。

下で待機して貰ってる。

「森田さんと華音君が中にいるのであれば大丈夫だろう。時間が無い」

 拓さんの車のキーを受け取り、俺と由佳は急いで向かう。

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