巨大な殺人装置
廃ビルに逃げ込んで一体どうするつもりなのか。
森田さんには誰もビルから出て無い事を確認して貰ってる。
森田さんからの連絡から10分後。
問題のビルに到着する。
森田さんが言ってた車はまだ止まったまま。
間違い無い。
まだ犯人と思われる人物はこの中にいる。
最近引き払われたのか、ビル自体は綺麗だ。
俺は慎重に周りを見ながら、警官と一緒にビルに入る。
もう1人の警官には入り口を張り込んで貰う。
エレベーターは使えないようになってる。
……1階1階調べるしか無さそうだ。
入り口は警官が見てるから、逃げられはしないだろう。
部屋数はそんなに多くない。
1階の窓から逃走すれば、森田さんが気付くだろう。
けど。
俺は考えを止める。
比較的新しい廃ビル。
ここが気になる。
そんなに都合良く、最近人がいなくなった廃ビルを犯罪に利用する。
あまつさえ俺達からの逃亡先に選ぶだろうか。
行き当たりばったりな計画過ぎないか。
幾ら殺人教唆を黒の御使いが実施したって言っても。
奴らはPCPのシステムを知ってる筈。
これだと最後まで殺人を遂行出来ないんじゃないか。
だったら。
考えられるのは。
ここは廃ビルになったんじゃない。
奴らがビルごと買い取った。
そう考えて良いかもしれない。
何の為にを考えれば。
森田さんに、念の為屋上をモニターしてるかを聞く。
誰もいないと確認が取れた。
だとしたら。
上じゃなくて下。
他の部屋を確認する。
事務所に会議室と思われるような場所。
「吉野君、どうかしたんですか?」
机をどかす。
確信がある訳じゃ無い。
だけどもしあるんだとしたら。
不自然な場所は無い。
カーペットには切れ目も無い。
思い違いなのか。
いや、違う。
部屋の隅のカーペットが捲れてる。
そっか。
カーペットはただ敷かれてるだけなのか。
だったら……。
俺は廊下に出る。
廊下の隅なら。
不自然な痕跡を残さず。
あった。
「こ、これは……!」
地下への入り口だろう。
「し、至急応援を要請します!」
単独で入るのは確実に危険。
犯人の追跡が不可能になった。
けど、映像から犯人の特徴は掴めるかも知れない。
けど。
俺は壁を叩く。
視点を変えて、心の闇を聞き出す。
簡単に言えばそう言う事だろう。
柳生さんが迎えに来てくれて、車の中で考える。
本当にどうする事も出来ないのだろうか。
頭では分かってるんだ。
黒の御使いに対してそう思うのは違うって。
捕まえるか捕まえられないか。
それだけで良いって思う。
けど。
全部が解決した後。
何も残らない。
私が空っぽになったら。
ただ不貞腐れるだけだと思う。
犯罪者の心理を踏まえて。
事件を防ぐ道を選べたら。
それはどんなに良い事なんだろう。
「有村さんは、犯罪者の視点から、物事を考えようとしているのですね」
私は頷く。
兄さんとは兄妹。
切り離して考える事はもう出来ない。
逃げないって決めた。
「なるほど。では1つだけ」
柳生さんは見た目には凄く優しそうだけど、これで会長なのだ。
オーラって言うのだろうか。
それは感じる。
「人それぞれ考え方が存在するように、犯罪も色々な考え方、捉え方が存在しています」
それは分かる。
……あ。
心の闇を持った人物を探す方法が、他にもあるって事だろうか。
「そうです。黒の御使いと久遠正義。彼らには決定的な違いがあります。何だと思いますか?」
……良く思い出す。
雷鳥峠の事件、由佳さんの誘拐事件、輓近の魔術師の事件。
呪恨館の事件、双鏡塔の事件、他は詳しく知らないけど色々。
共通点が無いか。
……あ。
黒の御使いは犯人が被害者に対して恨みを持ってない。
久遠達は犯人が被害者に対して恨みを持ってる。
「正解です。この大きな違いは、そのまま考え方にも当て嵌められると考えます。言い方が正しいかはさておき、黒の御使いは効率しか考えていない。対して久遠正義らは殺人者の気持ちに付け込んでいます」
どっちも悪には変わらないけど、久遠らが行ってると考えてる殺人教唆までの方法を、そのまま黒の御使いには当て嵌めない方が良いかもしれない。
だけど今話して、黒の御使いが効率を重視する考え方だとすれば。
何の効率を重視するか。
時間だろう。
ネット犯罪での資金確保。
犯罪者なら社会的地位は関係無い。
それなら重要視するのは時間。
由佳さんの誘拐だって魔術師の事件だって。
考える間もなく次々と目的を達成してってる。
「坊ちゃんみたいに頭が切れますね。有村さんも」
ちょっと嬉しかったけど、私だけじゃない。
翔太さんに関わる人達は皆、翔太さんの考えを目の当たりにしてる。
しかも柳生さんだって。
あの質問の仕方。
きっと翔太さんが子供の時にも同じような質問をしたんだろう。
「さ、大学に着きました」
部屋には由佳さんと森田さんがいた。
「お帰り華音ちゃん……と柳生さん」
「お待ちしていました。有村様に柳生様」
由佳さんに会釈し、物珍しそうに周りを見てる柳生さん。
由佳さんが苦笑いしてるけど、何かあったんだろうか。
「吉野様も一旦こちらに戻られますよ」
敢えて由佳さんに言う森田さんは、この状況を楽しんでるようだ。
……あ。
そっか柳生さんに倉田さんが全部話したんだっけ。
「な、何であたしに言うんですか……」
私が将来恋人を作るとしたら。
一般の人にしよう。
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