相手を遮断し思い出す

 森田さんから送られて来た位置情報。

まだ時間はある。

次の犯罪が遂行される前に。

俺は警官らとパトカーに飛び乗り、追跡を試みる。

『犯人と思わしき人物も車で移動しております。車種は黒の普通車です。北東方面を猛スピードで走っております!』

 目標まで、ざっと5kmは離れてるだろうか。

ショートカット出来るような道も無い。

でも、車なら離されないように追跡すれば、最悪降りた所を探せば何とかなるだろう。

パトカーはサイレンを鳴らしながら、車を避けて進んでく。

俺は警官の人にお礼を言う。

「こちらこそ。 ……実は倉田警視が知り合いびいきしてるんじゃないかと思っていた事、これでお許し下さい」

 はは……。

その間に俺は考える。

黒の御使いの目的が何か。

公になるような犯罪を実行し、もう水面上からこちらを覗いてるような状態と見て良いだろう。

黒の御使いって言うより、皇桜花の目的と考えるのはどうか。

黒の御使いの誰がリーダーかは分からないけど、皇桜花は少なくともかなり重要な位置にいる事は間違い無いだろう。

それに、仮に皇桜花とは別にトップがいるんだとして。

皇桜花がそれに従うとは思えない。

仮に従う人物がいるとすれば。

奴の家族に当たる人物だろう。

初めてあいつと対峙した時は自信が無かった根拠だけど。

こうして言葉で頭で整理すると信憑性が増してくる。

だとしたら。

両小指を絡め、手を口元に当てる。

ヒントは何か無いか。

奴らに関する情報で。

ネット記事を使った犯罪。

ネットを隠れ蓑として。

秀介への殺人教唆。

その他様々なリアルでの犯罪。

これらを行った事にも理由がある。

資金も人脈だってそうかもしれない。

けど、それだけの為じゃ決して無い。

もっとでかい。

用意した資金と人でやるような。

そして警官を殺害。

楓が言うには皇桜花と言う財閥関係者はいない。

それに殺人事件の舞台になったあの建物。

……いや、違う。

雷鳥館は確実に皇桜花はその存在を初めから知ってたんだろう。

知ってて爆破した。

爆破したって事は。

無くす事が目的だった。

じゃなかったら俺達をあそこに誘導する必要なんてどこにも無い。

建築物、破壊、ネットとリアルの犯罪、警察官……。

もしかして。

もしかしてだけど。

後は楓と姉ちゃんを待とう。

『車が止まりました。人通りの少ない……廃ビルでしょうか』

 そして、俺は犯人を捕まえ、これ以上の犯罪を防ぎにかかる。

仲間を信じるだけだ。



 柳生さんには華音君を迎えに行って貰う。

そして警官へ、黒の御使いの関係者を確保した情報を伝え、スマホを切る。

鮎川君に電話を取って貰ったが、どうも様子がおかしい。

私は拡声ボタンを押す。

『どうしたのかな? 異例の警視昇進なのに、嬉しくないのかな? 倉田拓也』

 直ぐに理由を悟る。

「今度はあんたが通報役って訳?」

『やっぱりもうPCPと協力してたんだね。まだ見てないけど、凄いシステムだよね。きっと』

 わざわざ我々に電話?

この状況で?

「どんな事件があったか聞くだけ聞いてあげるわ」

 私はハッとし、慌てて通話を切る。

「ど、どうしたんですか?」

 良く考えてみれば、おかしい。

恐らく末端の連中が2人捕まった事で、こちらの情報を予測して来たのだろう。

「その結果、電話ですか? ……あ」

 鮎川君も気付いたようだ。

ここで皇桜花と通話すると言う事は。

他の通報をここで処理する事が出来なくなると言う事。

こちらに来なかった電話がどこで鳴るか。

「各警察署または交番……ですよね」

 危なかった。

我々が皇桜花に構うべきではない。

「……あたしも冷静じゃなかったです。すみません」

 いや、まだ学生だと言うのにこの子らは。

警視と言う立場が恥ずかしく思えてしまう。

我々がすべき事は、かかって来る通報の真偽選別。

桜庭君と優子君に、皇桜花は引き受けて貰う。

握り拳を握る。



 ダメだ。

調べても調べても分からない。

丁度お腹も空いたので、(はっきり言って嫌だけど)楓と2人、近くのカフェに来てる。

官野帝について、ネットの膨大な情報でも全く分からなかった。

共通点と違和感を繋ぐ明確な情報、証拠が無いんじゃこれ以上調べようがない。

「私達ではここまでが限界みたいね」

 うーむ。

他に方法は無いか。

「食事を終えたら戻りましょう。捜査は進展している筈よ」

 時間が無いって言っときながらのこいつの冷静さには腹が立つ。

そもそもこんな地味な作業はあたしには向いてる訳も無い。

手っ取り早い方法は無いものか。

「高校時代の基準で物事を考えないで頂戴。相手が違い過ぎるわ」

 けど、そんな事言っといて、何も掴めずに戻るなんて事をこいつが納得する筈も無い。

「貴女に言われるとイラっとするわね」

 だったら。

本人に直接聞くのはどうか。

楓は頭を振る。

「貴女は本当に……」

 要はあたしか楓が囮になるって事なら納得するだろうか。

「反対よ。殺される覚悟はあるけれど、意味の無い事で死ぬ可能性は拒否させて頂くわ」

 まだ迷ってるのか。

決めきれないのか。

いつもはすっぱり決めれる筈なのに。

大切なものが増え過ぎたんだろう。


「んで、あたしの提案はどうなの?」

「……」

「翔太と由佳ちゃんの話だと、質問には案外あっさり答えるんじゃない? それにこれ以上調べても出ないって事は、情報規制でも敷かれた可能性があるわよね?」

「変な所で鋭いわね。確かにその可能性はあるわ。有村君の事件と同じく……」

「だったらもう関係者に聞くしか無いわよね。んで、時間も無い。他に代案あんの?」


 楓は腕を組み、目を閉じたまま。

「有村君の事件と同じく……」

 さっきの言葉を楓は反芻する。

「そうよ。それだわ! 情報規制が敷かれたのよ。恐らくだけれど、昔とは違う理由で情報規制が行われたのだとしたら……」

 まるで勝ち誇ったかのようにあたしを見る。

それがムカつく。

「囮をする必要は無いわ。もう少しだけ時間を頂けるかしら?」

 同時にパスタが運ばれて来る。

何を思い付いたのかは分かんない。

けどまたあの作業に戻るのは気が滅入る。

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