果たして先手を打てたのか

 途方も無い作業の中から、行方不明になった古い建築者の情報を見つける。

官野帝。

現在も生きていれば90歳にもなる。

気になった理由として、彼の建築物が1つも無いと言う事。

世界を渡っていた記録は特に無いけれど、行方不明と言う事が気になって仕方が無い。

「官野帝……特別事件に関わったって情報は無いわね。行方不明になったんなら、記録として残ってても不思議じゃないと思うけど」

 事件リストに該当するのは無し。

けれど。

帝と皇。

何故かここに繋がりを見てしまうのは、私自身が焦っているからだろうか。

「何? 何がそんなに気になるのよ」

 この人物以外は生死の確認が出来た。

他にも行方不明の建築家はいる。

翔太君だって確かな根拠の元に動いてはいなかった筈。

そもそも翔太君の仮説を基に調べているのだ。

頭から離れないのであれば。

少し掘り下げて調べても良いかもしれない。

何故行方不明になったのか。

それに、他の建築家が殺害された事件が無いか。

「殺人事件……建築家……も見当たらないわ。ちゃんと考えてんの?」

 脳筋にだけは言われたくなかったけれど、そんな事を言っても仕方が無い。

ただ、行方不明になった理由と建築物が1つも無い事実は気にはなった。

設計したものが犯罪に使われるようなものだったとしたら?

話が繋がる。

けれど、きっかけが分からない。

元からの犯罪者?

そんな事を認めたくは無かった。

「んー……言われてみたら、あたしも思い当たる所がある気がする」

 意外だった。

根拠は兎も角、聞いてみたい気持ちは抑えられなかった。

「ほら。あたしとあいつ、2回戦ってるでしょ? だから分かったんだけど、あいつの武術って型が無いのよ。組み合わせてんのかもしんないけど、あんな動き知らないわね」

 ……。

型が無い武道。

様々な建築様式。

ここだけにフォーカスすれば確かに共通点がある。

「何とも言えないけど、考え方は似てる。建築者と皇桜花。建築者が官野帝ってあたしは言えないわね」

 断片が微かな糸で繋がる。

後はそう。

黒の御使いの目的。

予測出来なければどうなるか。

覚えたばかりの覚悟をする。



 男は手慣れた手つきで被害者を装い、警察への通報を試みる。

「はい。警視庁の倉田です」

 まだ方法には気付かれておらず、現場へ直ぐに駆けつけて来るとの事だった。

聞いた事のある名字だったが、そんな事は些細な事だ。

警官が計何人いるだろうか。

そんな事を考えていると、パトカーから2人の警官が降りて来る。

体格の良い男だが、急所に体格は関係無い。

油断した隙に2撃で終わる。

「油断してはいけません」

 男は黒服の背後の攻撃を簡単に躱し、組み伏せる。

ナイフを黒服が落とした所で2人目の黒服の攻撃をナイフでいなす。

「動くな!」

 ふむ……。

油断してた事実を男は銃口越しに悟る。

だが、焦りが全く見られない。

「黒の御使いだな?」

 男は全く動じていない様子だった。



「はい。警視庁の倉田です」

 電話と同時にあたしは逆探知を始め、該当箇所の映像を抽出する。

少し時間を遡れば、事件が本当に起きたかどうかが分かる。

倉田さんが電話で自然に、且つさり気ない時間稼ぎをしてくれたから何とか間に合った。

その現場へ、警官に扮した柳生さんが駆け付けて捕まえる。

会の長が警察に協力なんて普通はする訳が無いけど、翔太の両親が作った組織だけあって、普通のものとは訳が違う。

『その動き、警察の者では無いようですね』

 向こうの会話はスピーカー越しに聞く事が出来る。

この声に、あたしは緊張と恐怖を思い出す。

間違い無くここに来たあの男の声だ。

『そしてこの迅速さ。恐らくは例の民間組織と協力をしている事も察しがつきます。やはり彼らは優秀だ』

『では、投降して頂けますか?』

 男は拳銃を突きつけてるだろう。

そんな状況で何一つ動じない柳生さんは凄い。

素直にそう思えた。

「確保は出来そうですか? 柳生さん」

『全く隙がありませんね。いやはや素晴らしい。もしや、我々は炙り出されたのかと思ってしまいます』

 警官を狙った人を捕まえるのが精一杯。

暗にそう言ってるんだろう。

『そうでもありません。お陰で警官を殺害し損ねました』

『う、動いたら撃つぞ! 発砲許可は下りている!』

『ご自由に。だが避ける事は不可能ではない。そうして避けられた弾が一般人に当たれば、貴方は責任を取れると思いますか?』

 ……ダメだ。

警官が唇を噛むのが想像出来る。

完全にこの男に負けてる。

『では、日を改めて。また』

 男は立ち去って行ったんだろう。

「警官を狙った男は確保出来ましたか?」

『ええ。 ……何とか』

 ホッとする。

兎に角これで何かしらの情報を聞く事は出来るだろう。

「安心するのはまだ早い。黒の御使いが何人単位で動いているのか。それさえも分かっていない。それにこの方法はもう使わないだろう」

 ……そうだ。

両頬を叩く。

他の方法。

そもそも、どうして警察への通報が1件だけだったのか。

今までは同時だったのに。

そう考えると、きっとこっちの動きを確かめる為に動いた可能性だってある。

翔太は別に動いてる。


トゥルルルル。


 また電話が掛かって来る。

倉田さんは無線で指示を飛ばしてる。

倉田さんが頷いてくれたから、あたしが代わりに出る。

『こんにちは。倉田拓也。警視になったんだってね。おめでとう』

 ……皇桜花。

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