見えないものを使い、想い
森田さんが犯人の追跡をしてくれてる。
推測が正しければ、次の犯行は午前0時10分。
それまでにこの事件は解く必要がある。
鑑識も揃っての現場検証。
被害者は先月退職した元刑事。
死亡時刻はやっぱり午後0時10分。
死因は心臓発作だと鑑識さんから教えて貰う。
両小指を絡め、手を口元に当てる。
気になるのは机のマイク。
何よりも死亡した位置。
部屋一面の死ねの文字から、犯人は脅しをかけて被害者を呼び出したと推測する。
だとしたらだ。
部屋の奥で死んでる事がおかしい。
脅しによって現場に来て、心臓発作で倒れたんだとしたら。
この文字を見て発作が起きたと考えるのが妥当。
だけど被害者は部屋の奥で死んでいた。
矛盾する。
そして何故マイクがあるのか。
スピーカーと監視カメラが見つかった事を聞かされる。
どこかでモニターしてて、被害者に喋らせるつもりだったのか。
この一面赤の現場で?
そんな条件を、被害者が呑むだろうか。
俺だったらこの部屋を見て逃げるだろう。
それなら。
部屋の奥まで入って行ける状況だったとしたらどうか。
例えば、模造紙か何かで部屋を白く見せとけば。
被害者は疑念を抱くだけで部屋に入ろうとはするだろう。
逃げる可能性が0じゃないけど、脅しの理由を聞きたいとは思うだろう。
俺の考えに賛同してくれたのか、鑑識の人が壁を調べますと言ってくれた。
その後、何らかのやり取りの後にマイクで何かを話す。
そう仮定すると、次は話しただけで死んだと言う有り得ない状況が出来上がってしまう。
自分が喋って発作が起きる。
有り得ないだろう。
スピーカーから例えば大音量の音が突然流れた?
可能性としてはあるかもしれない。
だけど、何もやり取り無しでマイクに向かう状況は考えにくい。
それなら、スピーカーからの一方的なやり取りが行われたと考えるべき。
そうなると、音が出ると分かった後、スピーカーから例え大音量の音が出たとして。
驚きはしないと考える。
だったらどうして被害者は発作を起こしたのか。
ここが焦点だろう。
考えられるのは。
ここから何かが無くなった。
森田さんに連絡をする。
今の推測が正しいのであれば。
犯人は事件が起こった直後にここを出た可能性が考えられる。
発作の方法は兎も角、犯人をまず捕まえて、犯罪を防ぐ事が先決。
森田さんは快く引き受けてくれる。
打たない手は無いだろう。
無くなってると言えば。
考えられるのは脅迫した手紙。
退職をした高齢の人なら。
スマホのコミュニケーションツールよりも手紙の方が確実だろう。
手紙ともう1つの何かが持ち去られた。
もう1つ。
視点を変える。
マイクだ。
マイクで一方的に喋らせて。
一体何をさせようとしたのかを考えてみる。
或いは何故マイクだったのか。
マイク無しでも犯人は聞けた筈。
それに、何か不審なものが置いてあれば元刑事だ。
怪しむに違いない。
被害者に怪しまれず、且つ犯人には必要だったもの。
……イヤホン、だろうか。
どこにもイヤホンの差込口が見当たらないとすれば、ワイヤレスタイプのイヤホン。
鑑識の人から、壁に付着した紙切れが見つかった事を聞く。
だとすればここが被害者の死亡後、俺達に見せる為に作られた空間だと分かる。
ここまで来て、他の場所で殺害してからここに運んだ可能性を探るけど、それなら森田さんが見つけてもおかしくない。
これ以上は証拠を見つけられないけど、後は森田さんからの情報だ。
と、警察と鑑識の視線が俺に集まってる事に今更気付く。
「君、本当にただの学生?」
「警視が気に掛ける理由が分かったよ……」
……びっくりした。
全員がグルで俺を拉致するのかと構えてしまった。
拓さんが信用してる人しかこっちに来てない筈だから有り得ないけど、1度した経験がそれを阻む。
兎に角、後は犯人から聞かないと分からない。
「犯人らしき方を補足致しました」
流石森田さん。
文字と音だけで殺人をしてしまう悪魔の人物。
お前の犯罪はここまでだ。
あたしは戻る前に、流魂に来てた。
天に昇って割れた風船の欠片が、世界中からここに集まって来るそうだ。
空から降って来る破片は、まるで人の思い。
だから魂が流れつく場所って名前がつけられてる。
翔太があれだけ人を想える性格なのは、吉野会にいたのもあるかもしれないけど、子供の頃からこの光景を見てたなら。
ああそうかと頷ける。
翔太がいかに本気で考えてるのか。
痛い程に真っ直ぐな想い。
柳生さんから貰った情報を考える。
得体の知れない外部勢力の動きによって、抗争が激化してる。
単純に言えばそうだろう。
何故は多分黒の御使いなら、障壁となり得る勢力の動き方を皇桜花が見る為。
そして誰が。
ここが問題だろう。
忘れてる事は無いか。
今までにあたし達が知ってる情報の中から。
ここだけを思い出す事が出来れば。
話を聞いてから、当て嵌まる何かがある気がしてならなかったから。
首を振る。
宙ぶらりんな考えだから纏まらないんだ。
こう言う時は原点に立ち返る。
黒の御使いは、元々あたし達はネット犯罪集団って事で知った筈。
有名人が過去に迫害を受けた一般人に、高額な報酬と引き換えに、一般人をネット記事で晒し……。
ハッとする。
スネーク。
得体の知れない理由も納得が行く。
彼らが動いてるんだとしたら?
動かしてる方法は兎も角。
人数も分からないような。
仮にスネークの中から逮捕者が出たとしても。
リスクは最小限に収まる。
仮説が本当だとしたら。
とんでもない組織なのを改めて痛感する。
「鮎川さん。こちらでしたか」
振り向くと、柳生さんが歩いて来る。
どうしたんだろうか。
「倉田警視に呼ばれました。私も一緒に連れて行って頂けますか?」
でも、吉野会の家は大丈夫なんだろうか。
「幹部連中も戻って来ましたので」
……。
急ごう。
考えも纏まった。
翔太の力になりたい。
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